脚本からスクリーンへ

ハワイの次世代映画制作者たちがシャングリラで映像界の大家と共有する学びの時間

文:
リンゼイ・ヴァンダル
モデル:
ミシェル・ミシナ
訳:
濱元恭子

オアフ島南東部の海岸線に突き出した岩場の上に佇む「シャングリラ イスラム文化博物館」は、絵画のように美しい海の景観と心安らぐ穏やかな静けさに包まれている。ここはまた、クリエイティブパワーが渦巻く神秘的な空間でもある。1937年に建てられたこの博物館は、サンゴ、石材、チーク材、タイル、大理石といった素材が用いられ、当時の住人であったドリス・デュークが抱いた文化的アイデンティティへの情熱を反映している。デュークが北アフリカやアジアを巡る旅で蒐集した2,500点以上の美術品や遺物が展示されているのだ。洗練された装飾や庭園、静寂な中庭とプレイハウス、ペルシャ風デザインのプールなどが、
この邸宅の魅力をさらに引き立てている。ここでは建築、芸術、文化、
そして自然が一体となり、物語を紡ぐ心が宿るのにふさわしい空間を生み出している。

The Shangri La Museum of Islamic Art, Culture & Design hosted the ‘Ohina Labs filmmaker workshop in Fall 2024.

シャングリラの魅力に引き寄せられるアーティストや音楽家に混じり、映画制作に携わる人々がここに集結した。昨秋、2024年の映画制作ワークショップ「オヒナ ラボ」が2週に亘って土曜日に開催され、10人の若手映画制作者が、映画界で活躍する「オヒナ」卒業生3人と一緒になり、学びの時間を共有した。メンターとして招かれたのは、エミー賞受賞のフードトラベルシリーズ『ファミリー・イングリディエンツ』の監督であるタイ・サンガさん、ディズニーの実写版『リロ&スティッチ』の共同脚本家のクリス・ケカニオカラニ・ブライトさん、そしてスラムダンス映画祭選出作品『シャペロン』を監督したゾーイ・アイゼンバーグ
さんら、実績と才能に満ちた3名の映画製作者たちである。

シャングリラの神聖な空間で、参加者たちは緑美しい庭園と水のせせらぎの中に身を置きながら、創造的な思索を深めるひとときを過ごした。敷地内のプレイハウスでは、メンターや他の参加者から脚本作りやプレゼンテーションのコツ、制作に関するアドバイスを受けたほか、
思いがけないゲストとの交流を深めた。今回サプライズで参加してくれたのは、ABCテレビシリーズ『LOST』でエミー賞にノミネートされた俳優のヘンリー・イアン・キュージックさんとマーベル スタジオ制作開発部門担当副社長のスティーブン・ブロシャードさんだ。そしてワークショップ最終日には、脚本家を目指す参加者たちが、ハワイをテーマにした短編映画の構想を審査員の前で発表することになった。

クリエイティブな作品制作において、ハワイと縁のある映画製作者のために設けられた『オヒナ フィルム メーカーズ ラボ』と『ショート フィルム ショーケース』は、地元や先住民の声を支え、その存在感を高める上で重要な役割を担っている。「オヒナ」とはハワイ語で「集まり」を意味し、1999年に初めて開催された短編映画の上映は10年近く続いた。2017年には、映画製作者のジェラード・エルモアさんとダリン・カネシロさんがこのイベントを復活させ、その際にオヒナ ラボを新たに加えた。サンダンス映画祭で注目を浴びないインディーズ映画を支援するスラムダンス映画祭のように、「オヒナ」の取り組みもまた、資金や援助、人脈に恵まれないハワイの映像クリエイターたちを後押ししている。

「海辺にそびえる壮麗な美術館と静養所のような静寂に包まれた環境を兼ね備えたラボは、世界中を探してもここだけでしょう」と語るのは、「オヒナ」の現エグゼクティブ ディレクターでもあるエルモアさんだ。「7年間で26本の映画を制作し、ここシャングリラで、サンダンスラボのような体験を共有し、地元のアートコミュニティが全力で関わってくれている。これこそが、この場を特別なものにしているのです」。2024年、シャングリラで初めてオヒナ ラボが開催された。その成功を受けて、今後の継続的なコラボレーション活動をエルモアさんは期待している。

ハワイ国際映画祭のパート ナーであるハレクラニは、ハワ イの豊かな芸術文化を支援 している。オヒナ フィルムメー カーズ ラボでレベルアップした 短編映画は、ハワイ国際映画祭 や世界各地の映画祭でたびた び上映されている。
アネット・アリニクスさんは、2人の親友が大切にしていた歌に秘めら れた真意を探求した脚本『カマアイナ・ノット・カナカ』でグリーンライト 賞を受賞した。

オヒナ ラボの最終セッションの締めくくりでは、サモア系アメリカ人作家のアネット・アリニクスさんが手がけた脚本『カマアイナ ノット カナカ』がグリーンライト賞を受賞した。この作品は、2人の親友が大切にしていた一曲の歌に秘められた真意を探る物語だ。シャングリラでの体験を「まるで現実と夢の狭間にいるようでした」と振り返るアリニクスさん。多様なコミュニティや文化に根ざした芸術に囲まれる中で、地元や先住民のクリエイターが直面する個々の課題についてあらためて考えさせられたと話す。「ハワイには、目に見える表層の下に、幾重にも重なる文化や歴史の層が存在しています。私たちの物語には、きれいに物語としてまとめられないものもありますが、どれにも大切な意味があります。私たちがどのようにここに至り、どのように生き抜いて耐え続け、そして未来のためにどのような土台を築いているのかを伝えることは何よりも重要なことです」

グリーンライト賞の副賞として、最大2万ドルの制作支援を受けるアリニクスさんは、オヒナチームの全面的なサポートのもと、『カマアイナ ノット カナカ』を完成させ、2025年の『オヒナ ショーケース』で初上映することを目指している。「これまで、情熱とプレートランチだけで作品を作り続けてきました」。資金的な苦境に立たされていたアリニクスさんだが「もう少しだけ大きな夢を見れるようになりました」と感謝の思いを語った。「私一人の努力ではありません。多くの素晴らしい仲間たちに恵まれたおかげです。必ず、われわれ全員の物語を伝えていきます」