二刀流の生き方

革、金属、油彩、木炭といった多彩な素材を使って創作するオアフ島在住の3人のアーティスト。キャリアにとらわれない、輝かしくクリエイティブな
芸術的アイデンティティの探求

オアフ島南東部の海岸沿 いを歩きながら、パレンテ= ロペスさんは、作品制作に おける無限のインスピレー ションを得る。
文:
リンゼイ・ヴァンダル
モデル:
ジョン・フック
訳:
松延むつみ

ニコール・パレンテ=ロペス
クリエイティブ エグゼクティブ、木炭画家

2024年4月、ニコール・パレンテ=ロペスさんは、他者のための創造から自身の情熱の探求へと視点を移す転換のときを迎える。世界的なテクノロジー企業のクリエイティブ エグゼクティブとして10年近く、さらにデザイン業界で15年のキャリアを積んだ後、パレンテ=ロペスさんは長期休暇を取ることを発表した。夫の家族の近くに住むために、最近夫婦でホノルルに引っ越してきたが、ホノルルからサンフランシスコのベイエリアまでの通勤は、彼女を2つの世界に引き裂いた。そのような状況をリセットする時期が来ていたのだ。 

新たな棲家となった島とのつながりを求め、サンディビーチやマカプウなどオアフ島南東部の海岸沿いを長時間歩いたパレンテ=ロペスさんは、太古の溶岩流と浸食によって形成された地形に驚嘆した。「かなり奥へと歩みを進めると、どこもかしこも溶岩だらけなのです」と話す。「この溶岩が土地だけでなく、ここで私たちが享受しているすべての基盤になっているなんて、本当に驚くべきことです。私はその物語に強く心惹かれるのです」

火山が創り出した地形を写真に撮り始めたパレンテ=ロペスさんは、一日に何度も同じ場所に戻り、自然光が風景にもたらすさまざまな効果を観察した。そして、お気に入りの岩のデジタル画像を拡大しては、木炭紙に極軟質の木炭鉛筆を使って、細部まで綿密に再現したスケッチを描き始めた。「木炭鉛筆を使うのは、とても豊かで奥行きのある黒を表現できるからです」と付け加える。

溶岩の絵は、完成までに10日から3週間ほどかかるが、より複雑な構成の場合はさらに長い時間が必要となる。「作品によっては、感情が揺れ動くことがあります」とパレンテ=ロペスさんは語る。そして、最初のスケッチは平面的で二次元的に見えることが多いが、「作品に没頭していくにつれ、濃密な陰影や奥行きが徐々に浮かび上がってくるのです」と説明する。

今のところ企業勤めに戻る予定はなく、創造的なエネルギーに導かれるままに、予定に縛られることのない自由な生活の流れを楽しんでいるというパレンテ=ロペスさん。ハワイの文化と地質が彼女の人生に与えた深い影響を伝えるため、2025年には初の木炭画展を開こうと構想を練っている。「私がどこまでも続く溶岩を眺めたときに感じる岩の重みを、作品を見た人にも同じように感じてもらいたいのです」と語る。「溶岩は、この瞬間のために存在する、知恵を宿した長老のようなものです」

ニコール・パレンテ=ロペス さんの木炭画は、質感と地形 を巧みに表現した作品だ。

クリスタル・デロジエ
マーケティング担当者、金属細工師、ミクストメディア・アーティスト

クリスタル・デロジエさんは、カリフォルニア州立大学フラトン校で美術を学ぶかたわら、同州アナハイムのウォルトディズニー スタジオで日々の運営管理を担当していた。その後ロサンゼルスのウォルトディズニー スタジオに異動。そこでは、映画のプレミアイベントや巡回展、ホワイトハウスのハロウィーン仕様の演出など、テーマイベントのデザインに携わるようになる。

「多くの創造的な夢が叶えられた素晴らしい経験でしたが、過酷なペースでの働き方がやがて心身の負担となってしまいました」とデロジエさんは振り返る。何度もの手術を経て回復し、人生の転機を乗り越えたデロジエさんは、新たなスタートを求めてハワイに移住する。2018年にハレクラニのマーケティング マネージャーに就任し、写真とデザインのスキルを活かせることになった。仕事以外では、水彩画や彫刻に取り組み、創作活動も再開した。

クリスタル・デロジエさん の芸術活動は、自己探求 の旅を映し出す。

デロジエさんがハワイの著名なアーティストであるサトル・アベさんに出会ったのは、ハレクラニギャラリーの特集で彼の展覧会の記事を担当したときのことだった。アベさんは彼女に金属細工への挑戦を勧め、より身近なジュエリー制作から始めてみてはどうかと助言した。「アベさんが展覧会に持ち込んだ作業台で、私は初めて金属を切断したのです」とデロジエさんは回想する。この経験は彼女の創作への情熱に火をつけた。「私は一瞬で心を奪われてしまいました」

絵画と金属細工の両分野を学んでみてはというアベさんの助言に意欲をかき立てられたデロジエさんは、アーティストのナサニエル・エヴァンスさんから油絵を学び、オンラインでジュエリー制作のビデオを繰り返し見て、芸術の世界に深く没頭した。2021年には、初のジュエリーコレクションを発表。続いて発表したコレクション「コーラル ドリームス」は、2023年にシアトルの「ゴースト ギャラリー」で展示された。同年、デロジエさんは「モリ バイ アート + フリー」のグループ展で新作の油絵を発表し、さらにアーティストのローレン・ハナ・チャイさんと共同で、ホノルル美術館の特別ジュエリーコレクションの制作を手がけた。

At present, DeRosier is preparing Sacred Darkness, an oil painting series that delves into themes of inner transformation and self-discovery. “There are still a lot of moody browns and darkness, but more greenery is emerging,” she hints. “The vibrancy mirrors the growth I’m experiencing in my life right now.”

サマンサ・フック 
写真編集者、革職人

オアフ島生まれの写真編集者であるサマンサ・フックさんが、友人が持っていた革製のジッパー付きクラッチバッグを見て、どうしても自分で作ってみたいと思ったのは2019年のことだった。YouTubeのチュートリアルをいくつか見て勉強した後、最初に手がけたのは、バラバラに切っ たアロハシャツを使って合成皮革の裏地をつけたクラッチバッグだった。創作意欲に火がついたフックさんは、天然タンニンでなめしたベジタン革と呼ばれる牛革を使った作品作りを始める。写真家の夫とともに、結婚式の写真編集を手がけるフリーランスの仕事に充実を感じていたフックさんだが、革クラフトは彼女に新たな創造性の場をもたらした。そのプロセスすべてに精神の浄化を感じたのだと、彼女は説明する。

彼女が手作りするハンドバッグのファンが増えてくると、フックさんは革製品を中心としたブランド「ダイダル セオリー」を立ち上げる。2024年6月、チャイナタウンにある共同スタジオスペースに拠点を構えたフックさんは、階下の小売店「オープン シー レザー」で作品の委託販売を始めた。店主のマイケル・ブルースさんが、彼女の指導者となってくれた。「技術が向上するにつれ、作品もよりきれいでシャープに仕上がるようになりました」とフックさんは回想する。「自分で作った作品だと胸を張って言えるようになり、さらにマイケルさんが委託販売に誘ってくれたとき、私は全力で取り組む覚悟を決めました」

「革を使って作品を作っていると、心が穏やかになり、安らかな気持ちになるのです」

サマンサ・フック、フォトエディター兼革職人
チャイナタウンにある工房 で、サマンサ・フックさんは、 匠の技を駆使して革で作品 を制作している。

フックさんの作品スタイルは幾何学的な形状の組み合わせが特徴で、「ハーフムーンクラッチ」や「シングルフィン ベルトポーチ」などの代表作は、彼女が愛するサーフィンや自然からインスピレーションを得たものだ。2024年のクリスマスシーズンには、グローバルオンラインマーケットのEtsyが、ニューヨーク市にて開催したホリデーポップアップイベントで、半月型の持ち手が付いた円形の「ハリ バッグ」を紹介した。最近、持続可能な素材に興味をもっているフックさんは、マヒマヒやサーモン、ヨスジフエダイといった魚の皮を、紅茶やキアヴェの樹皮から抽出したタンニンでなめした魚革も使っている。

フックさんにとって、写真編集は今でも一番好きな仕事であることに変わりはないが、「ダイダル セオリー」の可能性をどこまで広げられるのかということにも、大きな期待を寄せている。現在は「オープン シー 
レザー」にパートナーとして携わって、2025年春にヌウアヌ通りにオープン予定の新店舗の立ち上げの準備を進めている。

現在もフックさんはすべての作品を手縫いで仕上げている。「革を使って作品を作っていると、心が穏やかになり、安らかな気持ちになるのです」と語る。「私が作るものには、細部へのこだわりや思いが宿っているとわかってもらえると思います」