丘の上のオアシス

家族のストーリーと建築の歴史が息づく自然の中のくつろぎ空間、インテリアデザイナーの住居兼スタジオ

文:
ミア・アンザローネ
モデル:
マリコ・リード、アイフク・リッジリー
訳:
中村美和

ジンジャー・ラントさんは、2018年にハワイの林の中に建つミッドセンチュリー建築の家を初代所有者の孫娘から手に入れた。ラントさんが育った家は、そこから少し丘を登った場所にあった。彼女は子どもの頃に何度もその家を訪れ、元の所有者のひ孫たちと一緒に遊んだ。肌寒いクリスマスイブの日にはコア材の床の上を走り回り、現在は夫のジェームス・ウォルターズさんと一緒に使っている2階の主寝室でお泊り会をした記憶もある。家の歴史やデザインと建築に関する貴重な書類の原本を手に入れたとき、ラントさんは驚嘆した。「それは本当に愛情を込めて建てられた家だとわかったのです」

2018年の改装時には、補修や修繕そしてキッチンスペースの拡張に重きを置きながらも、建築当初の設計意図をできる限り尊重することを目指した。主寝室にあった紺色とピンク色のレンガ石は温もりのある白い壁にしてニュートラルな色調に変えたが、1950年代当時の家の趣は随所に残されている。たとえば、元々使われていた配管部品をキャビネットや引き出しの取っ手として使用し、床から天井まで広がる大きな窓や引き戸、また外の自然界を室内にもたらしてくれる溶岩石の暖炉などがそのまま活かされている。

住まいのマウカ(山側)には、ククイナッツやバナナ、ユーカリの木々が生い茂り、ジンジャーやハイビスカス、シダの彩る豊かな緑が広がっている。一方、マカイ(海側)のバルコニーからは、息をのむような絶景、そして遠くにはワイアナエの山脈を望むことができる。ラントさんにとって、この家の魅力はそのドラマチックなロケーションにあるという。「まるで断崖絶壁に立って、眼下に広がる世界すべてを見渡しているような気分になれるのです」と話す。

この住まいは、機能性と美しさが調和した空間だ。1階は、ラントさんのデザイン会社「タンタラス スタジオ」のクライアントを温かく迎え入れるスペースとなっている。2階には、主寝室、書斎、夫妻の第一子のための子ども部屋がある。さらに、別棟には、石材や生地、タイルのサンプルが並ぶ建築素材のライブラリーになっており、屋外の一角には夫の陶芸スタジオがひっそりと佇んでいる。

この家の歴史的な価値を大切に守っているラントさんだが、彼女の美意識は家のいたる所にあふれている。雑貨やアート作品の熱心なコレクターである彼女が集めたものには、それぞれにストーリーが宿っている。家のあちこちに飾られている島をモチーフにした絵画は、彼女のトゥトゥ (祖母)によるものだ。オフィスにあるデスクは、ラントさん と叔父が木馬と古い扉を使って手作りした。また玄関近く にある和箪笥は、隣家のリジェストランド ハウスからもら い受けた。リジェストランド ハウスは、名建築家のウラジ ミール・オシポフが設計したことで知られる邸宅だ。 

不動産業と音楽に携わる父と写真家の母のもとで育ったラントさんは、幼い頃から創造的な感性を育んでいた。子どもの頃、父親と一緒に住宅を見て回り、理想の住まいの可能性を目の当たりにしてきた。デザイナーであり住宅所有者である今、家とは心を落ち着かせ、静かに身を休めるための安全地帯のようなものだという概念に深く共感する。「そのような場所を誰かのために創り出すことに大きな喜びを感じているのです」と、ラントさんは語る。

家の中庭はまさに安らぎの空間だ。バルコニーに立つと、 2022年にこの家で行った自分の結婚披露宴を思い出す。 最初は雨のために屋内でパーティを開催せざるを得なかっ たが、やがて祝宴はバルコニーから中庭まで広がった。「披 露宴のために駐車代行会社を手配したのですが、この急で 曲がりくねった坂道を運転するのは大変だったでしょうね」 と、ラントさんは微笑む。「自宅で結婚式を挙げられたのは、 本当に特別な体験でした」。さらにラントさんは「中庭には、 ストリングライトが灯り、みんながそこで踊りました。小雨 が降り、花火が夜空を彩り、とても幻想的な光景だったので す」と語る。