自然のデザイン

自然界に潜む模様から着想を得て、意外性と不完全性を称えた優美な作品を創作し続けるハワイの陶芸家

文:
キャスリーン・ウォン
モデル:
クリス・ローラー
訳:
松延むつみ

自然界から多大なインスピレーションを得る芸術家は多い。オアフ島在住の陶芸家クリストファー・エドワーズさんは、ハワイの美しいビーチや神秘的な森をよくあるパノラマで俯瞰するのではなく、クローズアップするという手法で作品を生み出している。トゲトゲしたソテツの球果、珊瑚の欠片に無数にあいた孔、登山道の標識に巻き付く植物の蔓など、エドワーズさんの創造力の糧となるのは、自然界に潜む緻密なディテールだ。海水浴客がオピヒ(ハワイで食用や装飾品用に珍重されている一枚貝)の貝殻をただ眺める一方、エドワーズさんはそのまだら模様の放射肋や溝の不規則性をつぶさに観察する。「私は動植物専門の自然オタクと言えるでしょう」とエドワーズさんは語る。「でも、こういった部分に創作意欲を刺激されない人はいないと思うのです」

エドワーズさんの手から生み出される作品は、彼がハイキングや狩猟あるいはシュノーケリング中に見つけた幾何学模様やフラクタル構造そして放射相称性を反映した微に入り細を穿つデザインが特徴的だ。拡大鏡とカメラを手に、エドワーズさんは発見した対象物を詳細に観察する。「変化を伴う反復は、自然物特有といえます」とエドワーズさんは語る。コンピューターでレンダリングされた模様は完璧ではあるが、彼が言うように「生命力」は感じられない。

もともとエドワーズさんの本業はグラフィックデザイナーで、芸
術家になるつもりはなかった。だが、新しい趣味を探そうと、ウィンドワ
ード・コミュニティ・カレッジの大人向け陶芸クラスに参加したところ、その世界にすっかりのめり込んでしまった。「陶芸の虜になってしまい、気づけば陶芸だけをやっていたいと思うようになったのです」と語る。粘土のもつ無限の可能性に惹かれたエドワーズさんは、特に素材の触感と柔軟性が気に入った。「基本的には泥遊びですね」と語る。「粘土そのものにはまったく形はなく、どんな形も作り出せるのです」。長年、
仕事で「コンピューターに張り付いていた」エドワーズさんだが、ついに陶芸を本業にする決意をする。

グラフィックデザイナーを生業としていた陶芸家のクリストファー· エドワーズさんは、自然界に見られる複雑なデザインに惹きつけら れてやまない。

エドワーズさんの芸術家としての道は、19世紀ドイツの動物学者で博物学者だったエルンスト・ヘッケルの本との出会いによって、さらに具体化していった。ようやく顕微鏡が普及し始めた時代に出版されたその本には、ヘッケルが顕微鏡レンズの下で見た珪藻類やその他の単細胞生物の詳細かつ鮮やかに描かれたイラストの数々が掲載されていた。

ある意味、エドワーズさんの彫刻はヘッケルの作品を立体的に表現したものといえる。だが彼は、自然物を単に模倣したレプリカを作るのではなく、その複雑性に独自の工夫を加える。この手法は、ハレクラニの客室用に制作した「ワナ・ハレクラニ」という125個の手のひらサイズのワナ(ハワイ語でウニの意)にも見ることができる。この炻器(ストーンウェア)のプロジェクトでも、詳細な下描きなしに、いきなり粘土の塊を丸めて丸い型の上に置くと、すぐに作業に取り掛かった。数時間乾燥させて粘土が思い通りの硬さになると、自分の手で削った複数の彫塑べらを駆使して、優美な放射状のモチーフを何時間もかけて作りあげた。

「自然な仕上がりにならないので、私は滅多に彫る作業をしません」と語るエドワーズさん。粘土を彫る代わりに、道具を使って孔を開けたり、突いたり、刻印したりすることで、独特の生の質感を追求する。エドワーズさんによると、圧力や角度を変えたり、位置を変えたり、作品の周りを移動することで彫るだけでは実現できない複雑な模様の作品が生まれるという。

ハレプナ ワイキキのロビーの壁には、鉄と酸化コバルトを使って手作業で作り上げた14個の特大オピヒが飾られている。「オピヒの形状は驚くべきものです」と語るエドワーズさん。円錐形の貝殻の放射肋を型取り、丁寧に孔を開け、ところどころ金色の光沢を施して優雅さを巧妙に演出する方法について説明してくれた。

オピヒが垂直な岩の表面に張り付く様子を見て、エドワーズさんは、オピヒというモチーフはうまく壁面アートに応用できると感じた。
「よく注意して見れば、信じられないほどの美しさは、そこかしこに満ちています」と彼は語る。「たとえ、どんなに小さなものにでも」

エドワーズさんは、彫刻に 頼ることなく、手作りの道 具を使って、孔を開けたり、 突いたり、刻印する。そう
 することで、ある種の「リア
 ルさ」が生まれるのだと
 説明する。
ヌウアヌにある1920年代 のプランテーションハウス の下に設けられたエドワー ズさんのオープンスタジオ では、鳥のさえずりや近く の小川のせせらぎの音が、 作業中の彼を瞑想状態へ と誘う。