チェンジ・オブ・プレイス

ハワイの3人のアーティストによるホノルル周辺でのレジデンス期間中の作品を紹介する。

HAWKINS BIGGINS, JASON CHU, JOHN HOOK, AND COURTESY OF THE ARTISTS
文:
ナタリー・シャック
モデル:
ホーキンス・ビギンズ、ジェイソン・チー、ジョン・フック、アーティスト提供

ダウンタウン・ホノルル:パッション・オン・ディスプレイ 
アーティスト:サウモリア・プアプアガ

サウモリア・プアプアガさんにとって、コロナウイルスのパンデミック中の生活は、大きな変化をもたらした。隔離と孤立から経験した苦痛と不安は、アーティストとしての自分自身と正面から向き合う機会を与えてくれたという。それはキュレートされたソーシャルメディアでの交流やうわべだけのパフォーマンスにとらわれることなく「自分本来の内面からの美しさ」を受け入れることなのだ、とプアプアガさんは語る。それはアーティストであり、クィア(性的マイノリティ)であり、一人の人間としての“サウモリア”を感受することを意味する。

 その結果、生まれたアイディアがファインアートとパフォーマンスの境界線に立つダイナミックなアートプロジェクトだ。プアプアガさんの作品は、ハウウラの自宅から見上げる空にぶつかり合う雲や、すぐ近くのカハナ湾に広がる山や海の緑豊かな風景といった身近な自然界を題材にすることが多い。だが今回のプロジェクトで彼は、内面に目を向けることにした。自分が一番よく知っているが、時には向き合うのが難しい自分自身を描くことにしたのだ。『Dear Saumolia』は、若かりし自分に宛てたメッセージとなった。プアプアガさんは作品を通して、教会の中でクィアとして育つという複雑な経験をした、幼い頃の自分自身を導こうと考えた。

 このプロジェクトは当初、プライド月間のための企画だったが、2020年にパンデミックが起こって延期された。2年後、ハワイ州立美術館の新しいレジデンスプログラム「パッション・オン・ディスプレイ」の初回アーティストとして、このアイデアを復活させた彼は、まず肖像画を描くことから始めた。「自分の外見や自信のなさに目を向け、違和感を感じたことのあるすべてと向き合いました」とプアプアガさんは言う。「自分の容姿が嫌で、鏡から目をそらすことが何度もありました」。

 レジデンスでは、「パッション・オン・ディスプレイ」のスタジオスペースでライブペインティングを行い、来場者はアイデンティティ、成長、自己愛をテーマにした5つの個人的な作品の制作風景を見ることができた。彼自身の弱さをさらけ出すようなこの公開制作は、強い反響を呼んだ。「私が求めていた裸の真実と正直さを見た人たちは、泣き崩れ、私にありがとう、と言いました」とプアプアガさんは振り返る。

 プアプアガさんは、レジデンス終了後も、ありのままのクィアのアイデンティティをテーマにした作品を制作し続けようと考えている。だが今は、彼の心と絵筆はハウウラの雲を恋しがっている。「とても個人的で感情的な部分を共有したばかりだから」と彼は言う。「しばらく屋外でのんびり過ごすつもりです」。

チャイナタウン:アーツ&レターズ・ヌウアヌ 
アーティスト:スーザン・マダックス

2021年末に「アーツ&レターズ・ヌウアヌ」の壁を飾ったスーザン・マダックスさんのアート展『A Kind of Homecoming』の10点ほどの作品は、一見すると着物コレクションのようだ。優美に折られた染めぼかしの布が、今にも女性の肩にかけられそうに広がっている。この展示作品は彼女が着替えするたびに一枚ずつ足元に落ちていく、彼女のワードローブのようでもある。

アーティストのスーザン・マダックスさんは、米国本土に住んで何十年にもなるが、今もハワイにちなんだ作品を作り続けている。

 一方、アーツ&レターズ・ヌウアヌでのレジデンス期間中に制作されたマダックスさんの展示のインスピレーションは、もっと抽象的なものだ。「私はとても直感的に仕事をするタイプでね」とマダックスさん。「制作の過程で、私が大切にしているのは言語ではなくて、フィードバックループのようなその瞬間の対話なの」。『A Kind of Homecoming』が、誰かの腕の中に抱かれた遠く甘い記憶のように、優しく包み込むような温もりを感じさせるのは、そのためかもしれない。マダックスさんが幼少期を過ごしたハワイで作品を制作し、展示するのは、彼女のキャリアにおいて今回が初めてのことだという。まさに里帰りのようだと言える。

 1987年にプナホウ・スクールを卒業後、マダックスさんは米国本土に渡った。その後数十年間、絵を描き、テキスタイルの仕事をし、ハワイから離れた生活を送っていたが、決してハワイを忘れることはなかったという。「ニューヨークにいたときも、ハワイをテーマにした作品を作っていたわ」と彼女は言う。「特にニューヨークでは、ハワイとのつながりが必要だったの」。

 アーツ&レターズ・ヌウアヌのレジデンスは、そのつながりを文字どおり、そして象徴的に示すものであった。マダックスさんは高校時代からの友人を通じてこのレジデンスのことを知り、ハワイでの4週間、アートシーンの職人やクリエーターたちと新しい関係を築き、天然染料のワークショップにも参加した。彼女はさらに、場所との関係についても掘り下げた。この展示でマダックスさんは、彼女が育ったマノアや保護区で働く母親と何時間も探索したカイヴィの沿岸など、個人的に思い入れのあるオアフ島の3つのエリアを題材に扱っている。

 この一月におよぶ内省的なプロセスは、本格的な創作活動の序章に過ぎないと彼女は言う。「何が見つかるか見当もつかなかったわ。分かっているのは、これがインスピレーションのほんの一部だということね」。

マノア:トレーズ・エー・アイ・アール 
アーティスト:ティアレ・リボー

「真っ先に熱帯雨林の森に向かいます」と言うのは、オークランドを拠点に活動するアーティスト、ティアレ・リボーさんさんだ。オアフ島に帰省するとまず最初に訪れる場所だそうだ。「森は私にとって、祖先とのつながりを感じることができる場所です。家族に会うよりも先に森へ向かいます。私の家族はバラバラで、森はもっと深いつながりのある家族みたいな存在です」。何千キロもの海を越えて、彼女に呼びかけるハワイの地は、自分が誰でどこから来たのかを思い出させてくれるという。

 このような帰省は、リボーさんにとって決してあたりまえのことではない。カリフォルニアのベイエリアで10年近く暮らした後、彼女の家族はハワイ諸島のあちこちに散らばり、彼女が帰れる場所はなくなってしまった。先祖代々の土地に帰るのは、たとえ短期間であっても、宿泊費の高騰でますます費用が嵩むようになった。パンデミック後、各家庭が閉鎖的になっていることも、帰省が難しくなった理由の1つだ。最近ではゲストルームや友人宅のソファーに泊まれることも珍しくなった。

レジデンスプロジェクトに取り組みながら、リボーさんは詩的なビジョン実現の手助けをしてくれる地元のクリエイターやコラボレーターたちとも連絡を取り合った。

 それゆえにホノルル美術館とハワイ大学マノア校の芸術・美術史学部が共同で運営するアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「トレーズ・エー・アイ・アール」は、リボーさんにとってまさにうってつけであった。マノアを拠点とするレジデンスは、ハワイで制作活動を行い、考え、感じ、リボーさんの作品が追求する自然やコミュニティとの意義深いつながりを形成することのできる貴重な空間(家)と時間(1ヶ月間の滞在)を彼女に与えてくれた。彼女はこれまでに、拡張現実やウェアラブルバイオプラスチックなどを題材に扱ってきたが、人類と環境のつながりに対する彼女の強い関心は、常に一貫したテーマといえる。トレーズは、彼女が育んできたこのテーマを彼女が愛するハワイという場所で開花させる絶好の機会となった。

 レジデンスプロジェクトに取り組みながら、リボーさんは詩的なビジョン実現の手助けをしてくれる地元のクリエイターやコラボレーターたちとも連絡を取り合った。トレーズのサポートで、ネイティブハワイアンのテーマや物語に関するワークショップも開催された。「この場所にいること、そしてラ・フイ(ハワイアンの国)や他のアーティストたちとの出会いが、作品の大きな部分になっています」とリボーさんは言う。

 このプロジェクトは、『Ulu Kupu』というタイトルの実験映画で、熱帯雨林をさまよっている間に離れ離れになってしまった母娘の物語を映像で表現している。表現豊かで象徴的なこの映画の各シーンには、子供を母親の元へ導く擬人化された不思議なキャラクターが登場する。この作品でリボーさんが重視しているのは、ストーリーよりも、水の神聖さや土地と人々の深いつながり、そして帰るべき道をみつけるというテーマだ。

Expressionistic and symbolic, the film features only loosely defined characters—including beings who guide the child back to her mother.
表現豊かで象徴的なこの映画の各シーンには、子供を母親の元へ導く擬人化された不思議なキャラクターが登場する。

ハワイ州立美術館の来館者は、アーティストレジデンス期間中、サウモリア・プアプアガさんの制作風景を見学することができた。

プアプアガさんが常に描いている島の風景画とは一線を画した『Dear Saumolia』には、自己愛やクィアとしてのアイデンティティといった内省的な自画像が描かれている。

アーティストのスーザン・マダックスさんは、米国本土に住んで何十年にもなるが、今もハワイにちなんだ作品を作り続けている。

アーティストで映画監督のティアレ・リボーさんは、トレーズ・エー・アイ・アールのレジデンスプロジェクトで、彼女の人生に深い影響を与えた熱帯雨林を舞台として選んだ。

地元のクリエイターたちをキャストや製作チームに起用した『Ulu Kupu』は、森の奥で離れ離れになってしまった母子の姿を描いた作品だ。

While working on her residency project, Ribeaux collaborated with local creatives to bring her poetic visions to life.
レジデンスプロジェクトに取り組みながら、リボーさんは詩的なビジョン実現の手助けをしてくれる地元のクリエイターやコラボレーターたちとも連絡を取り合った。