精緻な金属

ジュエリーデザイナーであり金細工師でもあるジェイソン・ダウ氏は、まるで科学実験のような緻密さで、身にまとう繊細な芸術を生み出す。

文:
キャスリーン・ウォン
モデル:
ジョン・フック
訳:
南のえみ

ワイアラエ通り沿いのビル二階にひっそりと佇むのは、工房であり実験室のようでもあるジュエリースタジオ。陽射しが降り注ぎ、居心地の良いその場所には、20本近くのペンチ、手作りのコンピューター、顕微鏡、3Dプリンターなどの機械や道具が所狭しと並んでいる。ここは25年に亘り、ジュエリーデザイナーのジェイソン・ダウ氏が、身にまとう芸術を生み出してきた場所だ。その感性と精密さは、彼の長年の数学と科学への関心に根ざしている。

ダウ氏は幼い頃からものづくりに情熱を持っていた。アメリカのコロラド州デンバーで育った彼は、よく家の地下室でおもちゃの模型作りに夢中になり、時間を忘れて没頭したそうだ。高校生のとき、金属加工の授業を受ける機会があり、そこでジュエリーづくりに出合う。

ジェイソン・ダウ氏は、自身の高級ジュエリーコレクションにおいて、化学、物理学、冶金学、工学、数学を駆使している。

芸術や彫刻に魅了される一方で、科学や数学にも強い関心を抱いていたダウ氏は、両者の知識を深めるためにハワイ大学マノア校に進学し、生物学とスタジオアートを学んだ。将来は歯科医を志していたものの、卒業を目前に思い切って進路を転換し、ジュエリーデザインの道へと進む。カリフォルニアで宝石学を学び、ハワイに戻ってマウイ ダイバーズ ジュエリーで数年働いたのち、独立して自身のブランドを立ち上げた。

彼のスタイルは、自然界に見られる複雑な幾何学模様や、南アジアやイスラム美術、芸術に見られるモチーフから影響を受けている。ダウ氏が初期に感銘を受けたのが、シャングリラ イスラム文化博物館にある、モザイク模様や象嵌細工、そして照明器具だ。「楽園のイメージが頭に浮かんだんです」と、初期のコレクションに影響を与えた博物館での体験を振り返る。

「学びのプロセスに一番やりがいを感じるんです」

ジェイソン・ダウ、金細工師

これらのモチーフは、ダウ氏の作品に一貫して見られるものだ。
「ロータス」コレクションには、金のマンダラが豊富に用いられており、その繊細な模様はダイヤモンドや乳白色のムーンストーンで彩られている。「プラカーシャ」コレクションの精巧なペンダントは、ヒンディー語で「光」を意味するその名の通り、小さなランタンのようにチェーンの先で揺れ、レーザーカットされた模様を通して光がきらめき、埋め込まれたダイヤモンドやパール、ムーンストーンに反射して輝く。

ダウ氏のデザインはスケッチから始まり、それをCAD(コンピューター支援設計)プログラムで完成させ、3Dプリンターで印刷する。そこからジュエリーを手作業で鋳造し、石を取り付け、彫りと研磨を
行った後、パーツをレーザーで溶接する。さらに、顕微鏡を使って微細な部分まで緻密に仕上げていく。「時間も手間もかかりますが、それが瞑想的な時間にもなるんです」とダウ氏は話す。「ほとんどのアーティストがそうだと思いますよ。没頭してしまいます」 

ジェイソン ダウ ジュエリー は、ハレクラニのジュエリー ショップ「ヒルガンド」で一部 取り扱われている。
この豪華なマンダラリングのような精巧な作品は、東洋のモチーフと現代的なデザインを融合させている。

近頃の彼は、細やかな彫刻に力を入れている。のみを使って丁寧に彫り上げた金属の表面には、手作業ならではのシャープで鮮やかなエッジが浮かび上がる。複雑なイングリッシュ スクロール模様を
彫った銀製の時計のバンドを傾けると、彼が30時間近くかけて彫り上げた渦巻く花模様に光が当たり、輝きを放つ。近々、彼は地元の宝飾職人であり、クムフラ(フラの師匠)でもあるソニー・チンとコラボレーションして、ハワイ王朝伝来のジュエリーのコレクションを制作する予定だ。

創作意欲を維持するため、ダウ氏はジュエリービジネスを意図的に小規模にしているという。「習慣になってくると、何を変えるべきかが見えてきます」とダウ氏は語る。「新しいことを学び、難しいことに挑戦し、失敗する。そういった学びのプロセスに一番やりがいを感じるん
です」