クリエイティブ・カントリー

アーティスト、ジョン・コガ氏がワイメアで多面的なキャリアの新たな章をスタートさせた。

文:
ジャンヌ・クーパー
モデル:
メーガン・スペルマン

ホノルルで生まれ育ったアーティストのジョン・コガ氏は、妻で長年のビジネスパートナーであるカジサさんとともに、2019年にハワイ島の静かな田舎町のワイメアに移住した。引っ越してすぐの頃は、「右も左もわからなかった」と彼は素直に認める。最初は普通の住宅地に住んでいたが、その後、20分ほど離れた、霧さえかっていなければ素晴らしい山の景色が望める緑豊かな牧場に引っ越した。

 ボードショーツにスリッパを履いたコガ氏は、もともと馬小屋だったスタジオ兼ギャラリーを案内しながら、「不思議なことが起こってね」と話す。今朝、彼が招待した少人数のアーティストのグループについて言及し、「似た者同士は巡り合うようになっているんだ」と付け加えた。「ここでは深呼吸して、すっきりした頭で考えることができるからね」。

 馬小屋のスタジオに置かれたコガ氏のいくつかの絵は、ソフトな輪郭で抽象的な形と明るいパステル調の色彩が特徴的で、2021年のハレクラニでの個展の作品や、ホテルから依頼された4枚のオリジナル油絵、そして『Halekulani』と題されたオーキッズとラ・メールの間の壁一面を飾る2階建ての展示作品ともよく似ている。  ホテルの客室とスイート用に描かれた4枚の絵、『Dancing Spring』『Heavenly Water』、『Land Sky Ocean』、『Coral Blossom』の作品名は、ハワイの自然風景がコガ氏の想像力に与える影響力の深さを伺わせる。「石や山や雲や水の“魂”を表現するようにしているんだ。僕の絵を見る人に伝えたいのはそれなんだ」。

The natural forms in Koga’s work bear influences from his mentors, including luminaries Satoru Abe and the late Tadashi Sato.
コガ氏の作品に見られる 自然なフォルムは、サトル・アベ氏やタダシ・サトウ氏といった師匠の影響を受けている。

 ワイメアのスタジオ内にあるギャラリーに入ると、ハワイ島を象徴する溶岩を連想させる、藍色の空と黒い山に赤いリボンがうねる新作のキャンバスが目に飛び込んでくる。ハレクラニでの展示用に同じような絵を描いたのは、近隣の4万エーカーの牧草地を焼き尽くしたハワイ島最大の山火事を目撃した後だという。「あの山火事には本当に感動したよ。夜中にマウナケア山のほうを見ると、距離感が全くつかめなかった」と彼は語る。

 コガ氏の作品のエレガントな質素さと魅力的な色使いは、彼の絵画の師であるハリー・ツチダナ氏や故タダシ・サトウ氏から受けた影響で、彼らの作品はハレクラニにも展示収蔵されている。これらの先輩アーティストや、彫刻の師匠であるサトル・アベ氏、ブンペイ・アカジ氏らと“ププ(つまみ)”を食べながら一緒に時間を過ごせたことに、彼は感謝しているという。彼らもコガ氏も、ハワイのプランテーションで働いた日系移民の子孫だ。「みんながビジネスマンになっていく中で、彼らは美術の道を選んだんだ」。

 2001年にホノルル・スターブレティン紙に掲載されたプロフィールには、初期の展覧会で性的な彫刻やスカトロの彫刻を発表したコガ氏は当初、「アンファン・テリブル」としてホノルルで名を馳せたと書かれている。当時、報道陣の注目を集めるために、物議を醸す何かをしようとしていたという彼は、「アートというビジネス、それに美術館やオークションハウス、ギャラリーの役割を理解しようとしていたし、どうすれば有名になれるかを自分なりに考えていたんだ」と説明する。「僕はいつでも限界に挑んでいたんだ」。

 ニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミのギャラリーで高級家具や照明器具を展示するラルフ・プッチも、2007年にはコガ氏の質素な石の彫刻に目を留めた。ラルフ・プッチ・インターナショナルは、コガ氏の石細工、鋳造品、ブロンズの取り扱いを始めたが、プッチが自身の家具ブランドのデザインを依頼したのは2018年のことだった。プッチ独自の石膏ガラスを使った流動的な3本柱のシャンデリアと上部が球状のミニマルなデザインのフロアランプだ。「彼はまず、僕に彫刻家として有名になってほしかったんだと思う」とコガ氏は言う。「それからは自由にやらせてくれるようになったよ」。

 コガ氏が家具デザインの世界に足を踏み入れたきっかけは、「ずっと勉強してきた尊敬する人の一人」であるイサム・ノグチ氏の存在にあったという。アメリカの著名な彫刻家である彼について、「彼は僕たちにとっての創作活動のあらゆる分野にどっぷり浸かっていた。マーサ・グラハム氏とのダンスの共同プロデュースやセット作り、巨大なインスタレーションの制作、そしてもちろん家具作りにしてもね」とコガ氏。「彼の彫刻は誰もが買えるものではないかもしれない。だからこそ大衆向けに、彼らの住む生活空間のために彼が作ったものがここにあるんだ」。

 コガ氏のしなやかなデザインの照明器具には、うねったパズルピースのような彫刻と共通するものがある。光沢のある照明が、ワイメアのスタジオで最終仕上げを待っている。コガ氏がツアーに招待したのは、カパ職人のローエン・ハフォードさん、織物職人のリン・マーティン・グラトンさんとジョアン・ナムクーンさん、そしてレイ職人のメアリー・サカモトさんだ。地元アーティストの彼らは、コガさんがギャラリーの隣に建てた立派な鶏小屋で卵を生む一羽の赤い鶏を揃って興味深げに眺めている。コガ氏は、この新しい素朴な展示スペースで、友人たちの作品も紹介したいと考えている。

“You can breathe and think clearly here,” Koga says of his home in Waimea’s rolling hills.
ワイメアのなだらかな丘にある自宅について、コガ氏は「ここでは深呼吸ができて、考えがまとまる」と語る。

 「アーティスト同士だけでなく、コミュニティ全体の人助けをするのが僕の仕事だよ」と語るコガ氏は、ワイメアで毎週食事を提供するコミュニティミールのボランティアも行っている。「地域社会やアイナ(土地)に対して正しい心のあり方を持ち、お互いを思いやることが、僕にとって“生きる”ということの最も大切な要素なのさ」。