長椅子に横たわり、目を閉じていると、銅鑼の音が耳に響く。その断続的な振動に最初は圧倒されるが、それは次第にリズミカルになっていく。ミュージシャンのミシェル・パレーさんは、ハレクラニのガーデンテラスで長椅子の間を軽やかに歩きながら、クリスタルのシンギングボウルやユーカリの葉、水の入った器といった彼女が「バンド」と呼ぶ楽器を使って音を奏でる。パレーさんは、これから2時間にわたって、私をソニックリープさせてくれる。
ソニックリープとは、パレーさんが自ら提唱するサウンドセラピーにつけた名前で、人を深いリラクゼーションへと導き、意識を拡張するために考案された瞑想法の一種だ。サウンドセラピーは東洋に起源を持つが、目まぐるしく変化する世の中で自分を見つめ直すための手段として西洋でも人気が高まりつつある。さまざまな楽器が作り出す「音の繭」で包み込まれると「時間と空間の感覚を失う」とパレーさんは表現する。セッションは毎回異なり、その体験も人それぞれだ。
サウンドセラピーの背景にある考え方は、銅鑼の振動のような、ある一定の周波数の音波が脳をアルファ状態と呼ばれる覚醒したリラックス状態に誘導してくれるというものだ。2017年に行われたある研究では、チベットのシンギングボウル瞑想を体験した人たちが、緊張やうつ、怒りを感じにくくなったと報告されている。「振動と周波数を活用することで音が体内を移動し、停滞したエネルギーを動かすことができるのです」とパレーさんは言う。 「あなたの人生を邪魔しているものを跳躍することができると感じるはずです」 。
パレーさんがサウンドセラピーに出会ったのは20年ほど前、彼女の母親が50歳で早期のアルツハイマー病を発症したときであった。親の健康状態が悪化するのを目の当たりにし、その苦痛への対処法を求めていたパレーさんは、ニューヨークでサウンドセラピーのセッションに申し込み、その体験に感動を覚えた。
「それは私にとっての転機でした」と彼女は言う。 その後、スイスやポーランドのその道で有名なセラピストに師事し、サウンドセラピーの研究に専念するようになった。
それは言葉を失った母親とのコミュニケーションの手段にもなり、以来、彼女はニューメキシコ、ニューヨーク、ハワイなど、世界各地でサウンドセラピーのセッションを行っている。
パレーさんは運命的にも、2020年2月からハワイにパートタイムで住むことになった。ジャズアーティストのボビー・マクファーリンさんとの共演のためにハワイ島へ飛び、その後、西インド諸島でのアーティストレジデンスのために出発する予定だったが、パンデミックが発生したために渡航が禁止され、ハワイ島を離れることができなくなったのだった。 9ヶ月間ハワイ島に滞在した後、オアフ島に移り住んだパレーさんは、現在、ハワイとニューヨークを行き来している。ここでクリエイティブなインスピレーションを得るために彼女が訪れるオアフ島サウスショアのおすすめスポットをいくつか紹介する。
オアフ島サウスショアでパレーさんが想像的な刺激を求めて訪れるのは、慈善家でタバコ王のドリス・デュークの旧邸宅であるシャングリ・ラだ。2021年に初めて訪れて以来、シャングリ・ラの壮麗なイスラム芸術作品と同じくらい美しい海の景色に、パレーさんは魅了され続けている。ちょうどその頃、地元アーティストのカムラン・サミミ氏が美術館でのアーティストレジデンスで制作した一連の彫刻作品「サンクチュアリ」が展示されていた。彼の作品は、自然やスピリチュアルな旅を連想させ、サウンドセラピーのパレーさんの仕事と共鳴するものがあったという。「以来、この場所でいつかコンサートをするのが私の抱いている密かな夢です」と彼女は言う。
アメリカ人建築家の故ルイス・P・ホバート氏によって貝殻型の円形劇場を囲むように設計されたカピオラニ公園のワイキキ・シェルは、1956年以来、ホノルル屈指の野外音楽堂となっている。パレーさんがホノルル交響楽団の演奏を見たのも、ダイヤモンドヘッドを望むこのワイキキ・シェルの広い芝生広場であった。ここは彼女が純粋な屋外ライブを求めてやってくる場所だ。
ハレクラニホテル内にある居心地のよいカクテルラウンジ「ルワーズ ラウンジ」には、ジャズにまつわるあらゆるものへの賛辞が込められている。「トミー・ジェームスの演奏を聴くと、ハワイにいながらニューヨークの雰囲気を味わえます。まるでカーライルにいるような気分です」とパレーさんが話すのは、王族やセレブリティ、政治家の隠れ家として知られ、ボビー・ショート、ジュディ・コリンズ、アーサー・キットといった伝説的なパフォーマーを惹きつけたニューヨークの有名なカーライルホテルの豪華なキャバレーのことだ。ほの暗く重厚な落ち着きと高級感を感じさせるラウンジは、パレーさんが愛してやまない洗練されたエネルギーに満ちた空間だ。