過去への調べ

静かに息づくハワイアン音楽遺産の宝庫、ハワイ州立公文書館

文:
ミッチェル・クガ
モデル:
ジョサイア・パターソン
訳:
チング毛利明子

ホノルル市のダウンタウン、壮麗なイオラニ宮殿と威厳ある佇まいを見せるハワイ州庁舎の間に、知る人ぞ知る珠玉の建物「ハワイ州立公文書館」がある。バニヤンツリーの木立に囲まれてひっそりと佇む2階建てのこぢんまりとした建物だ。しかし、その外観に惑わされてはならない。この公文書館には、ハワイ王国時代にまでさかのぼる歴史的写真や地図、政府の記録に加えて、世界最大規模のハワイアン音楽の録音コレクションが収められているのだ。 

28,000点を超える録音音楽が収められたこのコレクションは、主に2つの大規模な収蔵品からなる。カナダのトロントから送られてきた、スチールギター奏者の故マイケル・ マラヒニ ・スコットさんが所有していた10,000枚のレコード、そしてハワイアン音楽の長寿番組『テリトリアル エアウェーブス』のDJだったハリー・B・ソリア・ジュニアさんの膨大なコレクションだ。州立公文書館としては異例ではあるが、2021年にソリアさんが亡くなった後、約12,000枚のレコードが寄贈されたことを受け、同館は蓄音機用録音音源の分野にまでそのコレクションを拡大することになった。 

ハワイ州立公文書館のレ コードコレクションには、 ハワイアン音楽の録音が 28,000点以上収蔵され ている。
1960年代、ハレクラニでは、 親しみを込めて「ハレクラニ ガールズ」と呼ばれたアリス フレッドランド·セレネーダー ズが演奏し、ワイキキのライ ブミュージックの伝説的な 中心地となっていた。

ハワイ州立公文書館の公文書管理責任者であるアダム・ジャンセンさんによると、従来の公文書管理者の研修では、紙の記録の優位性と永続性が強調されるという。しかし、この考え方は、ハワイのように主に口頭で伝承してきた文化には当てはまらないと、ジャンセンさんは指摘する。「記録に残すというのは、一度書き留めれば不変のものとして扱われ、変更できないという点が重要視されてきました。ところが、ハワイは今なお口承文化が色濃く根付いている社会です。その多くの物語や歌は一度も書き留められたことがありません」 

現在、ジャンセンさんは同館のレコードコレクションのデジタル化に取り組んでいる。最近筆者は、物がぎっしり詰まった屋根裏部屋を思わせるような資料館の閲覧室を訪れた。そして、その一角でひと
りのボランティアが箱からレコードを取り出し、一枚一枚丁寧にクリーニングしている光景に出会う。それは、サウスキング通りに店舗を
構えるレコードレーベル兼ショップのアロハ・ゴット・ソウルから寄贈されたものだった。この作業には従来の羽はたきやダストクロスではなく、最先端の技術が活用されている。まず、レコードをキース・モンクス社の「ディスカバリーワン リダックス プレミアム レコードクリーニングマシン」にセットする。このマシンは、2本の針が付いたレコードプレー
ヤーに似ているが、針の代わりにワイパーとスポンジが取り付けられている。次に、各レコードを「デグリッター」と呼ばれる装置に移す。
この装置では、超音波振動により発生させた気泡をレコードの溝に
当てて弾けさせることによって、レコードに残った汚れや微粒子を取り除くのだという。  

その後、レコードはさらに細かな工程を経てデジタル化される。その工程には、レク オ カット社のタルバトア ターンテーブルルとデュアル出力イコライザーが使用される。 この機器を使用することにより、シリンダーレコード特有のヒスノイズやポップノイズを含んだ生の録音と、音質の明瞭度を高めるために処理された録音を同時に録音できる。次に、索引作成の準備のために、レコードを通気性のよい特注のポリエステル製レコードジャケットに入れる。 

州の公文書管理責任者のアダム・ジャンセンさんによると、従来の公文 書館員研修では紙の記録が重視されるが、その方法は口頭伝承の文 化には当てはまらないのだという。
レコードをデジタル化すると、ヒスノイズやポップノイズを含む生録音と明瞭な音質を追求した 処理済みの録音という2つの 音源が生成される。

膨大な量のアーカイブをすべてデジタル化するのは非常に骨の折れる作業で、このプロジェクトはボランティアの献身的な努力に頼るところが大きいのだと、ジャンセンさんは言う。「この作業を担う専任スタッフはいませんが、幸いにも、このプロジェクトに熱心に取り組んでくれる心強いボランティアの皆さんがいます。これまでにオンライン化されたものはすべて、コミュニティが主導して成し遂げられたものなのです」 

アーカイブ作業は、非常に手間のかかるプロセスではあるが、ジャンセンさんはいつの日か、世界中の人々がこの一般コレクションにアクセスできるようにしたいと願っている。そして、すでにそうした取り組みの影響の兆しを垣間見た経験があった。最近、オレゴン州ブルッキングズ(彼によると「道路の小さなでこぼこのような町」)にある母親の家を訪れた際、ジャンセンさんは地元の図書館で自身の仕事について語る機会を得た。驚いたことに、聴衆の中に先住ハワイアンが2人いて、そのうちのひとりは、コミュニティによるアーカイブへの取り組みについて彼が語っているときに涙を流していたのだという。

ハワイを離れて何年も経つその女性は、このアーカイブが自身のルーツと再びつながる手段となることに気づいたのだ。数々の写真や土地権利書、婚姻証明書、個人の日記などの歴史的な記録が、故郷の「アイナ(土地)」とのかけがえのない架け橋となることに。この感動的な瞬間は、ジャンセンさんにとっても、プロジェクトの背景にある信念の核心と目的を再認識させるものとなった。「ハワイ諸島に住む先住ハワイアンより諸島外に住む人が多いことがわかった今、移動手段が限られていても、どこに住んでいても、政治的立場がどうであっても関係なく、すべての人々にサービスを提供するという、公文書館としてのより大きな責任を再認識しました。私たちの唯一の使命は、記録を保存し、その中に宿る真実を守り続けることなのです」