ハワイで夏を過ごしたことがあるなら、きっとマンゴーの季節を知って いるはず。庭の木にたわわに実った果実を食べきれなかった近所の人が、そっと玄関先に置いていく。ファーマーズマーケットのテーブルには、色とりどりのマンゴーが山のように積まれ、レストランや洋菓子店そしてカフェには、この果汁あふれる果物を生かしたドリンクやデザートが並ぶ。マンゴーブレッドがバナナブレッドに取って代わるほどの人気ぶりだ。しかしどれだけ工夫しても、さすがに全部は食べきれないのだ。
そこで登場するのが、ハワイアン ビネガー カンパニーだ。このオアフ島の企業は、2024年の夏に廃棄処分されそうだった90キログラムのマンゴーを使い、2026年春の発売を目指して、爽やかな酸味ある酢を仕込んだ。「私たちは、農家で余って行き場を失った果物や野菜を救うことを使命としています」と、共同経営創業者のブランドン・アスキュー氏が語る。「果物を絞ってジュースにし、ワインを醸造し、そのワインから酢を作るのです」

オアフ島中央部のワヒアワの街の目抜き通りから少し外れた場所にある小さな店舗「ザ ビネガリー」では、共同創業者のブランドン氏と妻のポニ氏が、規格外の農作物を使って、こだわりの酢やシュラブ(酢ベースのノンアルコールドリンク)を作り出している。木曜日から土曜日の正午から午後5時までオープンしており、来店者は製品を試飲できる他、購入した商品を自宅へ配送してもらうことも可能だ。
ハワイアン ビネガー カンパニー設立のきっかけは、ホノルルの食の現場で7年間にわたる起業経験を積んだ後の2018年にさかのぼる。アスキュー夫妻が以前手がけていたストリート グラインズでは、地元の飲食業者のために、イート ザ ストリート、テイスト テーブル、ホノルル ストリート マーケットといった話題になったイベントを数多く企画してきた。中でも、シェフのマーク・ノグチ氏とその妻のアマンダ・コービー・ノグチ氏と共に運営したテイスト テーブルは、シェフや飲食店が期間限定で出店し、可能性を試す実験的な取り組みだった。今では全米でも知られるザ ピッグ アンド ザ レディーやMWといった名店の誕生を支えた。ポニ氏によると、これまでの15年間で、夫妻が支援してきた小規模企業はおよそ500にものぼるという。
この活動を通じて、アスキュー夫妻は島内の農家と飲食業者の間の橋渡し役を担い、コストコやサムズクラブといった大手業務用仕入れ先に代わる、地元の仕入れ先を紹介してきた。小規模農業の物流や仕組みの複雑さに向き合ううちに、ハワイの食の流通システムが抱える課題が次第に見えてきたのである。

「私たちが消費するものの90%は州外から調達しているという話は、よく聞きます。でも、農家が育てた作物のおよそ40%が捨てられているという事実については、ほとんど語られていません」とポニ氏は語る。
この統計の数字に加え、ブランドン氏のワインづくりへの情熱が重なったことで、酢の製造というアイデアが生まれた。酢は、ワインをさらに醗酵させてできる酢酸であり、さまざまな原料からつくることができ、多くの食品の基礎にもなる。ハワイが州外からの酢に頼るのではなく、ポニ氏の生まれ故郷であるワヒアワでつくることができるのではないか。そう考えた2人は、5年にわたる製造と市場テストを経て、2023年にザ ビネガリーをオープンした。
アスキュー夫妻は、カカオ農家との協業に特に関心を寄せている。カカオ産業はハワイで着実に成長を続けているのだ。今回、彼らが再利用しているのは、チョコレート製造のために収穫されたばかりで 醗酵工程前のカカオの実から採れる搾汁である。同社がカカオの搾汁からつくる酢は高く評価され、2025年の全米インターナショナル ビネガー&オイル コンペティションで銅賞を受賞した。

バナナもまた、酢の原料として実用的であることがわかってきた。バナナの短い賞味期限を伸ばせるだけでなく、今まであまり知られていなかったナムワバナナのような品種を紹介する機会にもなっている。こうした認知の広がりが市場での需要を生み出し、それが農園における栽培品種の多様化を促進し、最終的には土壌の向上へとつながる。
最近アスキュー夫妻は、地元の蒸溜所で蒸留酒を製造する際に最後の工程でできる「テイルズ」という副産物を活用できることを知った。通常、テイルズは廃棄されるという。夫妻は、搾りたてのサトウキビジュースを使ったクラフトラム酒で高い評価を得ているコハナ ディスティレリーをはじめとする地元の蒸留所と連携し、このテイルズから職人仕込みの白酢をつくっている。「この白酢で目指しているのは、価格で勝負することではなく、3.5リットル入りの大きな容器に入った他の白酢と同じ棚に並ぶことなんです」とブランドン氏は語る。
廃棄物を減らし、食の安全向上にも寄与するという酢は希釈して飲むことで、生きた発酵食品としての整腸効果も期待されている。おすすめは、ハワイアン ビネガー カンパニーの飲む酢(シュラブ)を冷えた炭酸水に加えての摂取。トリプルシトラスローズマリーやパイナップルミントといったフレーバーが、酢を滋味あふれるドリンクに仕立てあげる。


