10年前、妻と私はアラワイ運河沿いのアパートに住んでおり、周囲を散策しているときに、ある建築要素が随所に使われていることに気付いた。それは小さくて中が空洞のコンクリートブロック。まるで子どもが切り紙細工で作った雪の結晶のようなパターンが中央にあしらわれていた。一つの壁に何十、何百ものブロックが積み重ねられ、さらに大きく複雑な模様を生み出している。それにより、堅固でありつつも風通しがよく、頑丈でありながらもどこか儚い得も言われぬ魅力が醸し出されており、私はすっかり魅了されてしまった。
これはなんと呼ばれるものなのだろう? 写真を撮って、インスタグラムに投稿した。答えを教えてくれたのは、ウェイ·ファンさん。当時はインターアイランド·ターミナル、現在はアーツ·アンド·レターズ·ヌウアヌのキュレーター兼コミュニティー開発者だ。「#ブリーズブロック」。彼女は一言こう答えた。
ブリーズブロックが一般的になったのは、1950年代後半のこと。コンクリート製造の進歩や、人件費、石材などの従来の建材の高騰があいまって、日差しを程よく遮りつつ、風通しもよく、費用対効果にも優れているので、香港やマイアミそしてホノルルなどの高温多湿な土地でとりわけ人気を博した。コンクリート製のブ リーズブロック壁は熱質量が高く、日中に太陽の熱を 吸収し、夜間に放出するという利点があるため、パーム スプリングスのような砂漠地帯にも適していた。イスラ ム建築の格子窓「マシュラビーヤ」のように、ブリーズ ブロックは地理的な影響を受けた気候対応型建築の一例でヨーロッパのブリーズソレイユやインドのジャリをよりがっしりとモダンにしたものだ。
さらに、ブリーズブロックは安価に製造できた。たった一つの型から何千ものブロックを作れたのだ。ワークショップ‐HIの建築家、ジェイソン・セリーさんは、まるで「粘土遊びの工場ごっこ方式」だと説明する。コンクリート石工会社は、建築家たちがカタログから好きなものを選べるように、標準的な形やパターンを製造しはじめた。
1960~70年代になると装飾的なブリーズブロックの仕切りが各所に見受けられるようになった。とくに、ハワイが準州から州になった後の建築ブームに沸くホノルルでは顕著だった。今日、ミッドセンチュリー・モダニズムが見直されていることもあり、ブリーズブロックは再び人気を取り戻しつつある。しかし、建築家のランス・ウォルターズさんは、「ブリーズブロックはブームになっているとはいえ、まだまだ過少評価されていると思う」と言う。
ブリーズブロックは、現代の建築家たちの遊び心をくすぐる。一つのブロックを裏返したり、上下をさかさまにしたりすることで、新たなパターンを作り出せる。建物の前面を装飾するまったく新しい方法でありながら、子ども時代のワクワクするブロック遊びを思い起こさせるような懐かしさも感じさせてくれる。
日差しが照り付ける郊外のパロロ渓谷の通りから、 ワイキキの目抜き通りの涼やかな歩道まで、今日ではブリーズブロックを目にすることが多い。というのは、昔からブリーズブロックは、ほとんど追加費用なしにカスタマイズできるため、予算が限られているプロジェクトには非常に魅力的な工法なのだ。セリーさんは、 「ホノルルには画一的で同じようなプランテーションタイプの家が多いが、そのような中で、建築家が標準的なモジュールにおいて、より自由に創造性を発揮できる唯一の領域がブリーズブロックのパターンなのだ」と言う。
ブリーズブロックの人気の高まりは、ソーシャル・メディアのおかげかもしれない。建築批評家のアレクサンドラ・ラングさんは、「インスタグラムのサムネイルで紹介される生活体験は、格子であったり、壁に映る影、有名写真家アンドレアス・グルスキーさんのミニチュア版ともいえる連続的な景観であったりと、現存する特定の建築様式を際立たせている」と述べている。ブリーズブロック以上に、このフォーマットに合致する建築要素はあるだろうか? 美しい格子の中の美しい格子、そのそれぞれが整然と背景を覆っているのだ。
今日でも、過去の面影はいたるところに見受けられる。ブリーズブロックはハワイ中の住宅、ホテル、銀行、ボウリング場などに設えられているが、現代建築の中にも新たな形で復活している。セリーさんは、カイムキにあるレストラン、マッド・ヘン・ウォーターのバーの土台に長方形のブロックを使い、対称に配置することで抽象的な円形と線が交差するパターンを作り出した。 「昔ながらのブリーズブロックと白く美しい大理石の天板の組み合わせは、おもしろい対比になると思ったのです」と語っている。
ブリーズブロックがハワイにおいて、ある種の小規模ルネッサンスを迎えている理由は、それがシンプルかつ合理的 でありながら、華美ではないからだろう。人や空気の出入りが困難なガラス張りの高層ビルが増え、バーチャルな世界が席巻しつつある中にあって、コンクリートブロックは素朴でがっしりとした手触りも頼もしい。どこか懐かしいブリーズブロックは、変化の真っ只中にあっても、「あなたはここに属しているよ」と語りかけるように、確かな継続性を私たちに感じさせてくれるものなのだ。