枢機卿の帽子を思わせる真紅のドームが印象的なダイヤモンド ヘッド ライトハウスは、レアヒ(ダイヤモンドヘッド)のふもと、海面からほど近いごつごつした山肌に立つ。長い歳月、太陽にさらされながら、オアフ島南東の海を行き交う船乗りや好奇心旺盛なハイカーたちを出迎えてきた。夜ともなれば、ろうそく10万本の明るさに匹敵するLED灯が、赤と白に点滅しながら14海里先からも見える光を放ち、万人に揺るぎないメッセージを送る。
ハワイの人々には世代を超えて親しまれてきた灯台だが、現在の建物は20世紀初頭に完成したもの。それより以前は、近づく船に浅瀬のサンゴ礁への注意をうながす高さ約12メートルの鉄塔があったのだが、1893年と1897年、立て続けに大きな座礁事故が起きたのを受けて1899年に伝統的な灯台の建設が始まった。
新しくできた灯台は船の安全に大いに貢献したが、強い風の影響と鉄骨構造の耐久性が問われて、1917年に大規模な改修工事が行われた。現在の姿になったのは1918年。鉄筋に白く塗られたコンクリートとしっくいの壁、高さ約17メートルの塔は、それから一世紀以上に亘って渦巻く海をじっと見守っている。
しかし、ドローンやGPS、AIが活用されるこの時代に、果たして灯台は必要だろうか?「絶対的に必要ですよ」と語るのは、アメリカ沿岸警備隊航海支援チームのマイケル・キャンピース一等兵曹。「船乗りたちは今でも100%、灯台を頼りにしています」。たとえ電子航法システムを使用していても、レアヒ沖の浅瀬を回り込む際には灯台が物理的な目印として大いに役立っている。灯台の光が消えることはめったにないが、いざ消えるとすぐに通報が入るという。「一刻も早く復旧しろとかなり強く迫られます」とキャンピース氏は打ち明けた。
第二次世界大戦以降、ダイヤモンド ヘッド ライトハウスはハワイにおける沿岸警備隊の拠点となっている。灯台に隣接する1921年に建てられた家屋には、第14管区司令官のショーン・リーガン少将が暮らす。平屋の建物は、かつて灯台守の住まいだったもので、美しい芝生と海を望む眺望が印象的だ。現在は司令官の公邸としてだけでなく、退任式や追悼式、外国からの賓客を招いての晩餐会、時には建物を管理するスタッフたちのパーティ会場としても活用されている。
「なんの特徴もないサーフポイントもある。でも、ダイアモンドヘッドには、ここにしかない目印があるんです」
レイス・スケ ルトン、サーファー
灯台の敷地はダイヤモンドヘッド ロードから数メートルのところにあるが、一般の人は沿岸警備隊の許可がなければ立ち入れない。灯台を管理するチームの一員であるキャンピース氏は、レンズの掃除やペンキ塗り、草木の手入れ、時には落書きを消すこともある。「灯台は、庭の高価な置物みたいなものですかね」と冗談めかして彼は言った。
急速な開発によって刻々と景色が変わり、人々に愛されてきたランドマークが次々と取り壊されるホノルルで、ダイアモンド ヘッド ライトハウスは常に変わらない姿をたたえてきた。そしてまた、意外な形で地元の人々の暮らしに欠かせない存在として活躍している。
早朝や夕暮れどき、灯台の位置を確かめるのは船乗りだけではない。灯台の下にある風の強いリーフで波乗りするサーファーたちのあいだで、ここはずばり“ライトハウス”と呼ばれ、グループチャット では“LH”と表記されるサーフスポットなのだ。カイムキ在住のサー ファー、レイス・スケルトン氏は、LHをホームブレイクとするサーファーにとって、灯台がどれだけ重要な存在かを語ってくれた。彼らは灯台、そして東のブラックポイントを目安に三角形を描き、波をキャッチするのに最適なポジションを割り出している。「LHは風が強くて流されやすいので、ラインナップの目印があると助かるんですよ」とスケルトン氏。「灯台を使ってラインアップを把握できる僕たちは、普段あまりここでサーフィンをしない人より波をたくさんキャッチできるんです」
スケルトン氏によれば、中級から上級者向けのこのサーフスポットは特定のタイプのサーファーに人気があるそうだ。「ここは人が少ないんです。風も強いし、波も読みにくいので、LHを敬遠するサーファーも多い。でも、混雑が嫌いなサーファーはここに惹かれます。孤独を愛するサーファー向けのサーフスポットなんです」
「とても幻想的です」。スケルトン氏がそう語るのは、灯台の光が点灯し、丘を登って車へ戻るサーファーたちを照らす夕暮れどき。だが、彼が一番好きなのは、南から雨をもたらす低気圧が停滞する“コナ ロー”と呼ばれる時期だという。降り続く雨で涙のように細い滝が灯台のそば、ダイヤモンドヘッドの斜面を落ちていく。そんなとき、サーファーと灯台は、お互いを映し出す鏡のようだ。どちらも悪天候に屈しない孤高の存在。「なんの特徴もないサーフポイントもありますが、ダイアモンドヘッドには、ここにしかない目印があるんです」とスケルトン氏は誇らしげに言った。