「私たちは皆、自分自身を見つけるために、過去と未来に目を向けている」と、芸術家の故イサム・ノグチ氏は書き残している。「ここには、私たちを目覚めさせるヒントがあり、そこには、かつて私たちのような誰かが歩いた道がある」。音楽家で作曲家のレイレフア・ランジロッティさんはこの言葉をよく口にする。ランジロッティさんの父親は当時のホノルル市長フランク・ファシに仕えていたので、ノグチ氏がホノルルハレ(市庁舎)の近くにある彫刻『スカイゲート』を建てたときに歩いたであろう道を、彼女は子供の頃、よく通っていた。
それは彼女がこの多作なアメリカ人彫刻家の作品について知るずっと前のことで、屋外彫刻に触れた初期の経験のひとつに過ぎない。旧ホノルル現代美術館で働いていたランジロッティさんの母親は、美術館の敷地内にあるキネティックアート(動く美術作品)で飾られた庭を散策するよう勧めた。「野外で沢山のアートに囲まれているのが好きでした」と彼女は振り返る。「私が芸術や音楽制作に対して遊び心を持つようになったのは、その影響が大きいのです」。
ランジロッティさんのような匠の技には、ストラクチャが必要とされる。幼少の頃、彼女は“厳格で保守的で素晴らしい”バイオリンの先生であるヒロコ・プリムローズさんに師事しながら、「ハーラウ・フラ・オ・マイキ」でフラを踊り、ハワイ語と音楽の豊かな文化教育を受けた。
2002年にプナホウ・スクールを卒業後、19年間、米国とヨーロッパで音楽を学び、演奏し、教えてきた。ニューヨーク在住時、イサム・ノグチ氏の作品を展示するロングアイランドにあるノグチ美術館とのコラボレーションを始めた。美術館のコレクションに深い感銘を受けた彼女は、その空間でパフォーマンスを行うことを提案したのだった。
ノグチ美術館はこのアイデアを気に入り、それまで合わせてディスプレイされることのなかったノグチ氏のトラバーチンでできた頭を後ろに投げ出した女性像『誕生』と金属製のリンチされた人体『死』の彫像2作品を同時に公開する次回の展示で、何か演奏してほしいと彼女に依頼した。ノグチ氏が楽器として制作した黒曜石のサウンドスカルプチャー2点を美術館から渡され、弦楽器と声楽のパフォーマンスの最初に鳴らしてはどうかと提案されたが、ランジロッティさんはあえてサウンドスカルプチャーを曲の随所に取り入れた全く新しい曲を作曲した。
このプロジェクトがきっかけでスタートしたコラボレーションは、ランジロッティさんが2021年にハワイに戻った今も続いている。現在、彼女は帰郷後のプロジェクトにふさわしい『スカイゲート』の作曲を完成させているところだ。ノグチ美術館で『スカイゲート』のミニチュア模型を見たとき、見覚えはあったものの、幼い頃、父親と一緒にその下でランチを食べたあの彫刻と同じだと気づいたのは、後になってからのことだった
不思議なフォルムの堂々たる彫刻は、塗装されたスチール製のフレームが、円形のコンクリート製プラットフォームの上に、7.3メートルの高さでうねったリングを支えている。このパブリックアートは、元ホノルル市長のフランク・ファシによるキャピタルディストリクトの美化活動の一環であったが、当初はあまり評判がよくなかった。「当時の記事には『これは何だ』というような面白いものがたくさんあります。多くの人が嫌っていました」とランジロッティさんは説明し、今の公園と彫刻の間に生まれた関係によって、その認識は変わってきたと付け加えた。「木々が成長し、彫刻の四面体の形を真似ているように枝を広げています。それはまるでノグチ氏がこの彫刻を、50年近く経った今の、彼が見ることのない未来の公園のために作ったかのようです」。
10名のミュージシャンのために書かれたランジロッティさんのパフォーマンスは、公園をコミュニティスペースとして活性化させるというノグチ氏の当初のビジョンを実現させたものだ。「彼はここでコンサートをしたかったのです」とランジロッティさん。「ここではどのミュージシャンの近くにいるかで聴こえる音が違ってきます。席に座って動かないコンサートホールとは違うのです。このプロジェクトで大切なのは、人とアート、そして公園の関係なのです。屋外で楽しむことに意味があるのです」。
1988年、ランジロッティさんが5歳の時に亡くなったノグチ氏は全く異なる芸術手法を用いたが、彼女は多くの面でノグチ氏自身と今もコラボレーションしている。ノグチ氏が遺した芸術作品、とりわけ彼の創作活動との向き合い方に共感を覚えるという。
現代美術の多くは、いわゆる「パースペクティブ・テイキング」、つまり相手の立場に立って物事を考えることを実践している、とランジロッティさんは言う。「ノグチ氏が公園の周辺や素材をどのように捉え、向き合ったのかを想像するのは楽しいです。彼の作品と向き合い、その周りを歩き、さまざまな視点から見て、なぜ彼がそうしたのか、どんなアプローチだったのかと考えたりします」と彼女は加えた。「創造とは問題解決のようなものです」。
さらに言えば、パースペクティブ・テイキングは、相手に共感するということ。それは私たちが持つ最強の問題解決ツールだともいえる。「人々が互いの意見を聞き、互いの視点を理解するのは難しいことです」とランジロッティさんは語った。「でも現代アートはコミュニティをひとつにしてくれます。お互いを理解するための手段となるのです」。