カーク・クロカワ、画家
ワイルク、プウアリ・コモハナ出身
2006年にマウイ芸術文化センターが主催したハワイの肖像画コンテスト「シェーファー・ポートレート・チャレンジ」に応募したマウイ島出身のカーク・クロカワさんは、同郷出身の芸術家で彼の個人的なヒーローでもあったタダシ・サトウさんの等身大肖像画「The Real McCoy(正真正銘の本物)」で審査員賞を受賞した。残念ながらサトウさんはクロカワさんがこの絵を制作中に帰らぬ人となったが、このときの経験は今もクロカワさんの作品に影響を与え続けている。「ラハイナにある彼の家で、何時間も彼の金言を聞くことができました」と語るクロカワさん。 「この絵が私のキャリアの始まりでした。タダシさんと過ごした時間は私にとって極めて重要なときだったのです」
Working mostly from his own photographs, Kurokawa uses oil paint on wood or canvas to capture everyday life in Maui, usually centered on a single figure. After the Lahaina fires, Kurokawa painted “Persevere,” featuring a papier-mâché daruma, a traditional Japanese wishing doll. Weighted at the bottom, the daruma embodies the spirit of Maui’s people through the Japanese concept of nanakorobi yaoki, which translates to “fall seven times, stand up eight.”
クロカワさんのお気に入りの題材の一つは、アマキヒ(ハワイミツスイ)やキヴィキウ(オウムハシハワイマシコ)など、絶滅の危機に瀕したハワイの鳥類だ。「鳥は、ハワイで失われつつある多くのものを象徴しています」と語るクロカワさん。「私たちが本気で取り組めば、鳥だろうと、水だろうと、土地だろうと、私たちが愛しているものをもっとうまく守れるはずです」
In “Allstar,” Kurokawa showcases his dad, Reggie, with arms crossed and a cigar hanging from his mouth. Sitting at Reggie’s feet is his longtime companion, a Pomeranian named ‘Ele‘ele, sporting a cross-shaped omamori, or Japanese good-luck charm, on his collar. “People think he’s a tough guy, but if you start talking about his grandkids, he’s in tears,” Kurokawa says. “My dad is all Maui … one of those guys who will do anything for anybody.”
エノカ・オ・ライ・フィリップス、フェザーレイ作家
ラハイナ、パウナウ出身
エノカ・フィリップスさんは、ラハイナルナ高校でハワイ文化について集中的に学んでいたとき、アフウラ(羽根のケープ)、マヒオレ(羽根のヘルメット)、カヒリ(羽根飾りのついたポール)、レイ・フル(羽根のレイ)などの画像に魅了された。神聖さと霊的な守護の象徴として、ハワイでは高位の首長のみが身につけることを許された伝統的な羽根細工の精巧さと鮮やかな色彩に、彼の中に眠っていた何かを揺り起こされたフィリップスさんは、その工芸の指導者を探し求めた。
2018年初め、フィリップスさんは、その芸術性とアロハ精神から、マウイ島で羽根細工の名工と謳われていたフローレンス・マケカウさん、スージー・ウヴェコオラニさん、パティ・ゴメスさんの下で、レイ・フルとレイ・フムパパ(帽子用バンド)を作り始めた。「アンティ・フローは、学びたい者を決して拒みませんでした。彼女は私に、学んだイケ(知識)は必ず他の人に伝えていくことを約束させました」とフィリップスさんは語る。羽根細工の道に進んで半年が過ぎた頃、曽祖母のリビー・カイヴィ・ホコアナさんがレイ・フルの名匠だったことを知る。「その瞬間、私は自分が正しい道を歩んでいることを覚りました。そして、この芸術を継承することは、私のクレアナ(責任)なのだと感じたのです」と彼は付け加える。
キジ、クジャク、ガチョウ、海鳥などからエシカルな方法で調達された羽根を何千枚も使ってフィリップスさんが作るレイ・フルやレイ・フムパパは、マウイ島の偉大な財産ともいえる太陽への敬意を表して、黄色とオレンジと赤の鮮やかな色合いを取り入れることが多い。「ハワイの人々にとって、カネホアラニ(太陽)は、すべての源です。エネルギーや光そして水さえも」とフィリップスさんは語る。「誰かにレイ・フルを贈るとき、太陽のような温かさや輝く美しさを感じてもらいたいのです」
21歳のとき、フィリップスさんは学生時代に何度も参加したカアナパリ・ビーチホテルで行われる繊維芸術カンファレンス「カウルヒワオレレ」に、クム(先生)として招待された。「何十年にも渡って技術を磨き続けてきた伝説レベルのクムや工匠たちと、自分が肩を並べてよいものなのか迷いました」とフィリップスさんは回想する。「そのとき、アンティ· フローとの約束を思い出したのです。そして、此処こそが自分がいるべき 場所なのかもしれないと気づきました」
アビゲイル・カヒリキア・ロマンチャック、版画家
クラ、ケオケア出身
アビゲイル・ロマンチャックさんの謎めいた版画は、破壊が進む故郷マウイ島の繊細な生態系の保護や、ハワイ先住民の伝統を現代に活かして永続させることを目指しており、芸術作品であると同時に行動喚起の作品でもある。海洋食物連鎖の崩壊を描いた「He Hōʻike no ke Ola (命の証明)」などの作品では、資料データを巧みに階層化したイメー ジに変換し、ハワイ先住民のアイデンティティと文化を強く主張すると ともに、人間が自然環境に与える影響の重大さを訴えている。
壊滅的なラハイナの火災の後、ロマンチャックさんは、西洋文化と接触する以前に存在したハワイの伝統的な土地区分であるモクを称える「ピリナ(関係)」を制作した。2024年、この作品はホノルルのシャングリラ・イスラム美術・文化・デザイン博物館で行われたグループ展「8x8:Source」に出展され、ワイ(水)の重要な役割、土地とそこに住む人々を守るためのハワイ先住民の資源管理の知恵について、あらためて考えさせられる展示となった。
ロマンチャックさんは、長年ハワイ先住民の伝統工芸であるカパ作りを手がけている。ワウケ(コウゾ)の樹皮の繊維を叩いて布を作る、その工程の細かいディテールを作品に織り込むことがよくある。ロマンチャックさんによると、カパの打ち手が濡れたワウケを叩く衝撃でできるエンボス(凹凸のデザイン)は、繊細で意味深いものだという。「それらを光にかざすと、生き生きとストーリーを語り出すのです」と話す。
スミソニアン協会アジア太平洋アメリカンセンターが進める企画「Ae Kai: A Culture Lab on Convergence(海と陸が出会う場所:収束に関する文化ラボ)」の一環として、ロマンチャックさんは鳥のさえずりのスペクトログラム(音の周波数や振幅などを3次元で視覚化したもの)を大規模なコラグラフ版画シリーズとして発表している。「Kāhea(叫び)」という作品では、キヴィキウ(オウムハシハワイマシコ)とアコヘコヘ(カンムリハワイミツスイ)の鳴き声がもう一度聞きたいと訴えている。「Kani Leʻa(喜びの音)」は、絶滅の危機に瀕したハワイの森の鳥たちの独特の鳴き声が表現されており、黒く塗りつぶされた部分は、永遠に失われてしまった絶滅種の沈黙を表している。
「私は伝統的なカパのウォーターマーク(透かし模様)に埋め込まれた線や微妙な層に、自然の風景を思い起こすことがよくあります。私の作品も、あえて(ウォーターマークのように)データや画像を隠して見せたいのです」とロマンチャックさんは説明する。「鳥のスペクトログラムの版画も、最初はただの曲がりくねった黒い線の羅列にしか見えないかもしれませんが、じっくり見ると、その奥に隠された意味を感じ取れるはずです」