音が織りなす静寂

スパハレクラニの「静かなテクノロジー 」にいざなわれ、健やかさとリラクゼーションへの新たな道へと踏み出す

文:
リサ・ヤマダ=サン
モデル:
ジョン・フック
訳:
チング毛利明子

スパハレクラニに到着したとき、正直なところ私の心と体は限界に近い状態だったのだ。2人の幼い子どもを抱えるワーキングマザーである私は、連日の睡眠不足のために、その目はかすんでいた。風邪とインフルエンザの流行に我が家も巻き込まれ、学校のスケジュール調整やバレエの発表会、それに私の仕事の予定も山積みだった。 

そのせいか、新しく改装されたスパハレクラニに足を踏み入れた途端、張り詰めていた心の糸がふっと緩むような、深い安堵感に包まれた。ホテルを象徴する7色の白を基調にしたスパのロビーは、木目調のアクセントが温かみを添え、心地よい水の音に包まれていた。水音は、
コオラウ山脈に源を発し、ホテルの地下を流れて敷地前の海に注ぐ淡水の泉「カヴェヘヴェヘ」を思い起こさせる。そこは、ゆったりと落ち着いた静かな癒しの場だった。 

スパの最新メニューである古代サウンドセラピーと最新技術を組み合わせた「バイブロアコースティック トリートメント」の予約までの待ち時間、エッセンシャルオイルの香りが心地よい冷たいおしぼりと
ココナッツフィルターで濾過したコップ一杯の水のおもてなしを受ける。この「バイブロアコースティック」はハレクラニ限定の特別トリートメントで、振動と音の周波数を利用して脳の活動を緩やかにし、心身を瞑想的なリラックス状態へと導くものだ。 

バイブロアコースティック セラピーは、音の振動を 利用して癒しとリラクゼー ションを促進する。

人間の脳には、およそ1,000億ものニューロンが存在し、それぞれが電気信号を発することで、私たちは考えたり、感じたり、眠ったり、食べたり、動いたりできるのだという。一日の中で私たちの脳は、さまざまな脳波状態を繰り返している。集中力が高まっているときに30ヘルツ以上で発せられるエネルギッシュなガンマ波、ほとんどの覚醒時に発せられるのは13~30ヘルツのベータ波、夢をみない深い睡眠状態時に発せられる0.5~4ヘルツの長くゆっくりとしたデルタ波などだ。

バイブロアコースティック トリートメントは、ステレオヘッドホンを通して異なる周波数の音を左右の耳に届け、脳が活動する周波数に働きかけることで効果を発揮する。その結果、脳は聴こえる周波数帯域に適応し、鋭い集中力を生み出す意識状態やリラクゼーションへと導かれるわけだ。同時に、専用のトリートメント用ベッドから微妙な振動が全身に伝わり、まるで映画館でアクション映画の音が体に響き渡るような音感覚を体験するのだ。 

スパハレクラニでは、4つの異なるバイブロアコースティック 
トリートメントが体験できる。「フォーカス 」は脳の活動を活性化させ、認知機能や記憶力を向上させる。「ドリーム」は、鮮やかな瞑想体験をもたらしてくれる。「リラックス」はストレスを軽減し、心身に深い安らぎを与える。「リストア」は2~3ヘルツの深いデルタ波領域で、意識と潜在意識の両方を休息させる。私はこの「リストア」を選んだ。

落ち着いた色調とナチュラ ルなアクセントが、安らぎの 空間を演出している。

トリートメントが始まる前に出迎えてくれた、ハレクラニのスパ&ウェルネス スーパーバイザーであるフィリップ・ブリトさんは、こう話してくれた。「1回22分のセッションを終えて目覚めると、まるで一晩ぐっすり眠ったような気分になりますよ」

ブリトさんが、スパの新しい3部屋のプライベートルームのひとつ「ナへ ワイ」のドアを開けると、青い光に包まれた室内では、ドイツのウェルネス界のパイオニアであるガリエニ社の開発したバイブロアコースティックテーブルが、まるで別世界のテクノロジーで動いているかのように光を放っていた。私はベッドに横たわりシーツをかけると、体を包み込む加熱式ウォータークッションに身を委ねた。ブリトさんがヘッドホンを私の耳に装着すると、深く長いハミング音や水滴の音が響いている。目を閉じてリラックスしようとするが、私の頭の中は、やらなければならないことのチェックリストでいっぱいだった。 

多くの人がそうであるように、私も一日の終わりに気持ちを切り
替えて思考を完全に停止するのは苦手だ。夜、ベッドに横たわりながら、明日やるべきことを頭の中で思い描きつつ、同時に今日やってしまっ
た失敗を反芻することもしばしばある。人は集中力が極まった瞬間に達成感を得られることもあるが、慢性的に脳が高活性状態にあると、意思決定が鈍るだけでなく、認知機能の低下や頭痛、気分障害といった健康問題を引き起こす可能性がある。とくにストレスの多い環境や「戦うか逃げるか」といった緊張状態にあると、脳はその影響をより強く受けてしまう。一方で、深い睡眠時に現れるデルタ波は心を落ち着かせ、身体をリセットして免疫機能を促進し、代謝の維持や血糖値の調整に重要なヒト成長ホルモンやその他のアンチエイジングホルモンの分泌を促すのだという。

定番のスパトリートメント や「静かなテクノロジー」に より、スパハレクラニはゲ ストに心身の癒しを提供し ている。

ヘッドホンから流れる音楽が次第に高まり、私の意識はどこか未知の場所へと吸い込まれていった。それはまるで時空を飛び越え、漆黒の世界へと入り込んだような感覚だ。そして、気がつけばいつの間にか、私は現実へと引き戻されていた。目覚めると、耳に届くのは、ヘッドホンから流れている音楽なのか、それともスパに到着して以来スピーカーシステムから流れていた、くぐもったサウンドトラックなのかわからないほど繊細な音だけだった。私はゆっくりと体を伸ばして気持ちを整える。わずか22分間のセッションであったにもかかわらず、ブリトさんの言葉通り、まるで一晩たっぷり眠ったような心地よさをもたらしてくれた。心身ともにリフレッシュし、これから一日を迎える準備が整ったのを感じた私は、思わず微笑んでいた。