タロイモを植え、水を守る

非営利団体が、先祖代々の伝統を復活させ、ヘエイアの土地と精神を未来に繋ぐ。

文:
ローレン・マクナリー
モデル:
ジョン・フック

 ハワイでは海を中心に生活が営まれているが、昔からハワイ先住民が神からの贈り物として認識してきたのは「ヴァイ(ハワイ語で「真水」の意)」である。1848年には、欧米諸国と同じ様式の私有財産所有権に従って土地を再分配するグレート・マヘレが施行された。それ以前は、ハワイにはアフプアアと呼ばれる独自の土地区分システムがあり、山から海へと注ぐ真水の流れを中心にして楔(くさび)形の区画に分割していた。ハワイ先住民は、島の生態系において真水が重要な役割を担っていることを熟知していたという。伝統的なハワイ社会のあらゆる側面において、「オラ・イ・カ・ヴァイ(ハワイ語で「水は命」の意)」という世界観が浸透していたのだ。

 オアフ島の東側に位置するヘエイアと呼ばれる緑豊かなアフプアアは、この貴重な資源にとくに恵まれていた。へエイアに住むハワイ先住民は、豊富な雨量と川の流れを利用して、海岸沿いにはロコイア(ハワイ語で「養魚池」の意)を、内陸の谷間や平地にはロイカロ(ハワイ語で「タロイモ畑」の意)を造成。それらは保水池として機能し、流域を潤し、ヘエイアはオアフ島で最も農業生産性の高い地域の一つとなった。

“When we first came here, this was all invasive trees,” says Kāko‘o ‘Ōiwi’s executive director, Jonathan Kānekoa Kūkea-Shultz. “It wasn’t this field of vegetables and fruit and kalo (taro).”
カコオ・オイヴィの事務局長、ジョナサン・カネコア・クケア=シュルツ氏は、「初めて来たとき、ここには外来種の木しかなかった。野菜や果物もなく、決してバラエティに富んだ畑ではなかった」と述懐する。

 記録によると、1940年代までのヘエイアの主要作物はタロイモだったが、土地利用の変化により肥沃な湿地は休耕牧草地となった。1990年代に大規模な住宅開発が計画されると、ヘエイアがかつての豊かさを取り戻すことはもうないのではないかと思われた。ところが、地元コミュニティの猛反対によって、この計画は立ち消えになる。そこから数十年間、ヘエイアの土地は再び遊休地となった。

 その頃、へエイアに隣接するカネオへ湾の脆弱な生態系バランスは崩れていた。この地域の休耕地は保水力や堆積物に対する濾過機能が弱く、流出した土壌が沖合で堆積するのを助長していたという。70年代にカネオヘ湾に持ち込まれ、むやみやたらに増殖した外来藻類によって、湾内の珊瑚礁は窒息していた。また、1920年代に洪水対策や浸食防止のために植えられた外来種のマングローブが海岸沿いに急速に繁殖し、湾の海洋生態系に大きな打撃を与えていた。 

「子どもの頃、この辺りを通りかかると巨大なマングローブ林があって、『臭い橋』と呼んでいたよ」と、ジョナサン・カネコア・クケア=シュルツさんは語る。ヘエイア川を横切る橋の両側にはマングローブが生い茂り、美しいカネオヘ湾やエメラルドグリーンに輝くコオラウ山脈の景観が完全に遮られていたという。シュルツさんは、かつてカネオヘ湾に少なくとも20か所はあったというハワイ先住民が造った養魚池の中で2番目に大きいと言われるへエイア養魚池を復元するため、2001年にパエパエ・オ・ヘエイアという非営利団体を設立。団体の運営をしていた頃、彼はこの橋を頻繁に利用した。パエパエ・オ・ヘエイアで働いていた時も、後に生理学者兼海洋保護コーディネーターとして自然保護団体のザ・ネイチャー・コンサーバンシーで働くようになってからも、シュルツさんは湾の生態系問題を根本から解決するためには、上流での取り組みが必須課題であると考えていた。

 ザ・ネイチャー・コンサーバンシーの支援を受け、シュルツさんは非営利団体であるカコオ・オイヴィの事務局長に就任した。この団体では、ハワイ州地域開発局と2010年から38年間の賃貸借契約を交わし、ヘエイア湿地内の約164ヘクタールの区画を生産性の高い農業および文化地区に変革する活動を行っている。シュルツさんにとって生産性が高いというのは、土地の大部分をロイカロに戻し、コミュニティに栄養豊富な食料源を提供し、かつ効果的な形で資源管理を活性化することを意味している。タロイモ栽培を始めるにあたり最初に土地を開墾した時、ヘエイアのクプナ (ハワイ語で「長老」の意)たちはその意義を深く理解していた、とシュルツさんは思っている。

カコオ・オイヴィのレイ作りワークショップでは、土地との絆を強める。

Kāko‘o ‘Ōiwi’s lei-making workshops are an invitation to deepen one’s connection with the land.

 長年に渡り遊休地となっていた土地でタロイモ栽培を再開する前には、やるべきことが山のようにあった。かつてタロイモ畑が広がっていたこの地域で利用していたアウヴァイ(ハワイ語で「灌漑用水路」の意)に再び水を引き込み、外来植物を取り除き、土壌を回復させる必要があったのだ。この大事業を成し遂げるため、カコオ・オイヴィはコミュニティの協力を仰いだ。ヘエイアの地域住民そして地域の外からも人びとが修復作業に参加できるボランティア・ワークデーを設けることで、プロジェクトに参加した誰もが、この土地とより密接な関係を築けるようになった。「農業に携わらない人が土地を耕しに来ることは、とても重要なことなのです。農業に携わらない人も食料供給システムの一部を担っているのですから」とシュルツさんは語る。カコオ・オイヴィでは、タロイモ畑の手入れを手伝ってくれる学生やボランティアを招き、植えられたばかりの草花をはじめ、ウル(ハワイ語で「パンノキ」の意)やマイア(ハワイ語で「バナナ」の意)などの果樹が並ぶ小道を散策したり、過去と現在そして未来の世代をつなぐ精神的な絆を意味する「プウラニ」と名付けられたアグロフォレスト(森林農法の森)で、季節の花を摘み取ったりしながら、ヘエイアの歴史や昔からこの地で暮らしていた人びとの文化的かつ精神的な慣習を学べる機会も創出しているという。

「プウラニを設立したとき、ここは私たちの心の糧となる場所にしたいという意図がありました」とカコオ・オイヴィの畑担当マネージャーであるマヘアラニ・ボテルホさんは語る。「そこには、薬やフラ、そしてハレ(家)の建築資材やレイ作りに使えるものを植えました」レイメーカーの家庭に育ったボテルホさんが、あるとき叔母にレイ作りの上達法を尋ねると、叔母は「アイナ(土地)との関係を築くこと」と答えたという。その言葉を胸に、ボテルホさんはプウラニを訪れる人に、ヘエイアにあるロレカア渓谷のモオレロ(ハワイ語で「伝説」の意)をよく話している。ロレカアとはハワイ語で「転がるネズミ」という意味で、伝説によると、島のどこからかやってきたネズミの集団に餌を盗まれることにうんざりしたコオラウ山脈のネズミたちが、よそもののネズミを騙して山から転げ落として撃退したという。「コオラウのネズミは、自分たちのアイナ(ハワイ語で「土地」の意)を熟知していたからこそ、守ることができたのです」とボテルホさん。「アイナについて知っていれば、その資源を守ることができます」

 そのため、カコオ・オイヴィでは、自分達の使命は「コミュニティに食料を提供すること」と「その精神を育むこと」の2つであると考える。また、ヘエイアの土地と人びとに滋養を与えることで、生態系のバランスが健全に保たれている証である絶滅危惧種のアラエ・ウラ(ハワイ固有種で水鳥の一種のバン)やアエオ(クロエリセイタカシギ)といった、この地域固有の野生動植物が復活することを願っている。「先祖が私たちに伝えてくれたことを、これからも続けていきたいのです」とシュルツさんは語る。「鳥のさえずりが聞こえますか? 昔も今も、私たちの祖先はこの鳥たちの鳴き声を通して、私たちとコミュニケーションを取っているのです」

Kāko‘o ‘Ōiwi’s culinary agriculture specialist, Kimberly Oi—a former pastry chef at Nobu and The French Laundry—prepares a feast of traditional Native Hawaiian foods grown on site.
カコオ・オイヴィでカリナリー農業スペシャリストを務めるキンバリー・オイさ んは、NobuやThe French Laundryで働いたこともある元パティシエ。 敷地内で栽培した食材を使ってハワイ先住民の伝統的な料理を調理する。
Members of the community can take part in the restoration effort and, in doing so, forge a closer relationship to the land.
ヘエイア地域の住民はもちろん、他の地域に住む人びとも修復作業に参加することによって、土地とより密接な関係を築くことができるのだ。
In restoring the wetlands of He‘eia, Kāko‘o ‘Ōiwi is helping to rehabilitate the native wildlife that once flourished there.

ヘエイアの湿地の復元を目指し、〈カコオ・オイヴィ〉はかつてここで繁栄した野生動物を呼び戻そうとしています。

「自らのアイナ(ハワイ語で「土地」の意)を知ることで、資源を守ること ができる」と語る、カコオ・オイヴィの 畑担当マネージャー、マヘアラニ・ ボテルホさん。

“If you know your ‘āina (land), then you can protect your resource,” says Kāko‘o ‘Ōiwi’s lo‘i manager, Mahealani Botelho.