2020年に劣化した祖父母のイヤーブックのモノクロ写真を試しにデジタル技術でカラー化したことがきっかけで、すっかりその魅力の虜になったトニー・バーンヒル氏は、今では古いハワイのスナップ写真の色付けに専念している。
バーンヒル氏は、玉座のリリウオカラニ女王の肖像、パイナップルを分け合うデューク・カハナモクとアメリア・イアハート、素朴なワイキキの風景といった写真をカラー化している。
あらゆる記録がデータとして残される現代社会では、デバイスの中に無数の画像が存在し、カラー写真の持つ影響力は見過ごされがちだ。だがバーンヒル氏の作品を見れば分かるように、濃淡のグレーに赤、青、緑を重ねていくことで、思いがけない効果が生まれる。
写真に収められた過去の人物が突然、より身近な存在に感じられるようになる。デュークとアメリアはもはや遠い存在ではなく、古風な服装を除けば、写真はまるで昨日撮られたもののようにも見える。このポリクローム(多色)写真の中の二人は、私たちの日常生活で目にするような顔立ちをしていて、誰かの叔父や友人であるかもしれないとすら思えてくる。
バーンヒル氏は最初に、州や国の公文書館で公有に属する写真を探し、それをフォトショップで加工して、まずはポップな色調に仕上げる。ボタンをクリックするだけで色付けができる技術もあるが、人工知能は人間の目にはかなわない。最後に色のレイヤーを手作業で調整し、実際の色合いに近づけていく。
20年近くオアフ島に住んでいるバーンヒル氏は、「この技術は、太平洋諸島に住む人たちの肌や熱帯植物や海の色には対応できていないんだ」と説明する。「僕はここに住んでいるから、窓の外を見さえすればいつでもインスピレーションを得ることができるのさ」。
バーンヒル氏は、写真に写っているものを忠実に再現することが何より重要だと言う。リリウオカラニ女王の写真は、装飾が施されたワインレッド色の女王のガウンを観察しに、実際にビショップ博物館を訪れた。街でのドライブやハイキングも、風景写真の色付けの参考になっているという。こうした努力によって、色彩を蘇らせるだけでなく、モノクロ写真に隠れていた微妙なニュアンスを表現することができるのだ。
「写真には、モノクロでは見えないものがあってね。特に顔のシワや空の雲といった細かいディテールが面白さにつながっているんだ」とバーンヒル氏。
モノクロ写真はすべてを古めかしく感じさせる。バーンヒル氏の鮮やかなイメージは、過去と現在の距離を縮め、古い写真に新しい視点を与えてくれる。
「色には、人々の想像力をかきたてる力があるんだ」とバーンヒル氏はいう。「そこに写っている過去の世界がそれほど昔ではないかのように思わせてくれるパワーがね」。