アーティスト・アット・プレイ

相反するものの対比を楽しむメアリー・ミツダさんの直感的で自由な表現

文:
エリック・スティントン
モデル:
クリス・ローラー

パロロ渓谷の奥に佇むメアリー・ミツダさんの自宅兼スタジオは、周りの景色に溶け込んでいる。太陽の光がスタジオの天窓から川底に沈殿する土砂のように降り注ぎ、渓谷を風が通り抜けるたびに流れる雲によって光が遮られ、スタジオ内の明るさは刻々と変化する。

 「光によって絵の見え方がどう変わるかに興味があるわ」とミツダさんは言う。壁には未完成の絵が2枚掛かっていて、彼女は話しながらその絵に向かい、時折手を加えている。スタジオの一角には、廃棄されたコンピューターの部品で作られたトーテム、枯れていくティリーフの絵、漁師の木版画といったミツダさんと彼女の夫であるアーティストのジェシー・クリステンセンさんの作品が展示されている。その中でも一番興味をそそるのはクマサカガイの貝殻ではないだろうか。ミツダさんは小学校の発表会を思わせるような真剣な表情でそれを見せてくれた。 

 クマサカガイは深海に住む軟体動物で、海底を移動しながら小さな貝殻や石を拾って殻表に付着させ、成長していく。米国メディアのアトラス・オブスキュラはこの貝を「世界で最も芸術的な軟体動物」と評しているが、ミツダさんはその言葉を高く評価するに違いない。「もともと芸術の道に進むつもりはなかったの」とミツダさんは言う。「意識して決めたわけではなく、気がついたらこの世界に引き込まれていたの」

 ミツダさんはアイエア高校に通っていた頃は美術の授業を受けたことがなく、ハワイ大学に入学した当初は英語を専攻していた。ところが文学部のクラスメートは真面目な性格で、遊び好きで自由奔放なミツダさんとは相容れなかった。陶芸を専攻していた高校時代からの友人と一緒にキャンパス近くのアパートに引っ越した彼女は、すぐにスタジオに住み込んでいるような友人たちのグループに溶け込んだ。「彼らは常に何かの作業をしていて、常に楽しんでいた」と当時を振り返る。そして美術の授業を片っ端から受け始めた。

 「何もかも無意識だったわ」と彼女は言う。「だから私はクマサカガイにとても共感するの。彼らの生き方には何か自由な選択肢があるようにも見えて、でも実際にはほとんど直感的に動いているのではないかしら?私がこの貝を大切にしているのは、私たちの人生、そして選ぶ道の多くがある意味で無意識かつ本能的なものだということを思い出させてくれるからなの」

 しかし、長年かけて同じ技を磨くこと自体、意識しなければできない行為である。ミツダさんはそんな矛盾を楽しむ自らの表現を、斜に構えつつも、直接的なアプローチだという。彼女は怠惰と実用主義から生まれるミニマルな美学を好み、曖昧で神秘的で示唆に富むアートに最も心を動かされるという。

Photograph of artist Mary Mitsuda

 「私が言うことはすべて、その逆もまた真なりだと思うの」とミツダさん。「自分が怠け者の画家だと言えば、努力家だと言うのと同じくらい偽っていることになるわ。私はただ、自分のことをそれほど深刻に考えないようにしているだけなの。なぜなら、本当に興味のあることをするときは、何でも真剣に考えるものだから。おそらく真剣すぎるくらいにね」

 彼女の作品は、移ろいと移り変わり、光と闇、大地と海、生と死といった相反するものが共存することを示唆し、追求する作品だ。そこに生まれる緊張感と二面性は、彼女の作品のテーマというだけでなく、彼女の生き方におけるプロセスも象徴している。

 ミツダさんが真っ白なキャンバスに向かって最初に行うのは、彼女が「任意の背景」と呼ぶ、手や幅広の筆で絵の具を広範囲に塗りつける作業だ。そこからプラスチック製の樹脂スプレッダーを使って、最初に塗った絵の具の上にレイヤーを重ねていく。彼女はこの工程を「絵を単純化するプロセス」と呼んでいる。

 「絵を描くときは、セクションごとに作業しているわ」とミツダさんは言う。「一度に全体を見たくないのよ。何かをあきらめるってことは、本当は単純化する方法なの。それによってより良いものになるかを判断しなければならないから。そうするといじれるものがなくなって全体がクリアになる。シンプルにすることは意外と複雑なのよ」

 彼女は40年以上アーティストとして絵を描き続けているが、その集中力に負けないくらいの遊び心をキャンバス上で持ち続けている。人生で出会うあらゆるものからさらなるインスピレーションを受け、芸術家として今もなお伸び伸びと成長し続けているミツダさんはこう語る。「自分が何によって興味を喚起されるのか、どんな謎に惹かれるのかわかってきた気がするわ。海底を移動しながら、いろいろなものを拾って頭に貼り付けているクマサカガイのようにね」

Mitsuda says. “This life absorbed me.”
「もともと芸術の道に進むつもりはなかったの」とミツダさんは言う。「気がついたらこの世界に引き込まれていたの」